第87話 これまでのバンドの話をしよう その3
軽快なジャズが流れる中、凛子さんが渋々という表情で話し始める。
「そもそも私は中学から高校まで吹奏楽部に入ってたんだよ。入部と同時にドラムを始めたんだ」
「凛子さんが吹奏楽?」
あまりに彼女のイメージとかけ離れていたので変な声が出た。
「この子が吹部なんて信じられへんやんな?」
「はい。ぜったい軽音部か運動系だと思ってました」
「でもな写真あるねんで。ちゃーんと女子の制服着て街のイベントでドラム叩いてるねん」
「えーっ」
全然想像できない。半信半疑で凛子さんの方を振り向くと、奥歯をギリギリと噛み締めた彼女と目が合う。ギョッとするほど怖い顔だ。
「だから話したくなかったんだよ!」
胡座をかいた自分の太ももを左手で殴る。耳まで真っ赤だった。めちゃくちゃ怒ってる。
「じょ冗談ですよ!ちゃんと信じてます!」
「嘘つけ!」
「本当ですって!当然じゃないですか!」
あわてて言い訳する。それから話を吹部から逸らすために尋ねた。
「こ…高校の時って彼氏いなかったんですか? 凛子さんスラッとしてるしモテそうだけどなぁ〜?」
「この子がモテるわけないやん」
「ちょっと黙っててください!」
振り向いて葵さんに釘を刺してから、恐る恐る凛子さんに向き直った。今ので火に油を注いだかもしれない。
すると彼女は怒りを剥き出すかわりに仏頂面で頬杖をつき、ぞんざいな声で答えた。
「いなかったよ。中高一貫の女子校だったからな」
「しかもウチでも名前知ってるぐらい有名な横浜のお嬢様学校」とヒソヒソ声で葵さん。
「お嬢様?!」
だめだ。頭が混乱する。どうしてもお嬢様な凛子さんをイメージできない。
その時、刺すような視線を感じた。反射的に振り返ると凛子さんがまた顔を歪ませて私たちをジッと睨んでいる。絶対お嬢様のしていい顔じゃない。
「もういい!もう何も話さないからな!」
両腕を組んでそっぽを向いてしまう。しまったと思い、私は子どもみたいに不貞腐れている彼女に続きをうながした。
「すみません!神戸に来てからのことを聞かせてください!どうやって華さんに出会ったんですか?」
「もう知らねぇ!帰れ!」
声を荒らげる凛子さん。すると葵さんがため息混じりの呆れ声を出した。
「あほやなぁ。それだけバンドマンとしての姿が板についてるってことやん。なんで怒るんよ」
そう言われて凛子さんはハッとした顔をする。そして照れくさそうに「へへ。そ…そっか」と頬を掻いた。
さすが葵さん。きっとバルでもこんな具合で酔ったお客さんを上手く転がしてるんだろうな…
改めて葵さんには気をつけようと肝に銘じていると、ちょっと得意げな声で凛子さんは続けた。
「華にはじめて会ったのは大学1年の秋。私の対バン相手だったんだ」




