第85話 これまでのバンドの話をしよう その1
「さて…どっから話すかなぁ」凛子さんが腕を組んで胡座をかき宙を見つめる。
「そらバンドの結成からやん。ちゃんと聞いといたるから簡潔にな」と葵さん。いつの間にかまた布団の中に潜って頭だけ出している。
「待て。なんでお前も聞く側なんだ、今日何しに来たんだよ」
「そりゃあんたがウチの不在をええことにウチのこと好き勝手に言わさへんためやんか」
「なんだよこいつ」
凛子さんは葵さんを睨んでチッと舌打ちする。
「あっあの」私はおずおず手を挙げた。「私もこのバンドの結成から…ううん、結成まで凛子さんたちが何やってたのかも知りたいです」
私がこのバンドに華さんと入れ替わりで加入したのは、結成から1年以上経ってからだ。
それまで凛子さん、葵さん、そして蘭子さんが何をやってきたのかあまり聞いてない。
凛子さんは大学の軽音部でバンドを組み、葵さんは色んなバンドのサポート。蘭子さんはこのバンドがはじめてのバンド活動だったはず。
それくらいしか昔の話は会話に出てこない。
「まあそれもそうやなぁ」と葵さん。「ほんなら凛子の身の上話からやな」
「おい勝手に決めるなって」
すかさず私はもう一度右手をサッと高く挙げた。「聞きたいです!凛子さんの生い立ちとか初恋とか失恋の話!」
「なんで失恋が前提になってんだよ!」凛子さんが座卓にバンッと両手をつき身を乗り出してくる。私は仰け反りながら謝った。
「ああっすみません!つい無意識のバイアスで」
「お前…私のことどう思ってんだよ」
唇をツンと尖らせて凄く心外そうな表情をする凛子さん。ごめんなさい。
「ほら凛子、手短でええから早く。ウチは6時半までやねんから」
「じゃあお前から話せよ」
そう言われて葵さんは「ほんならウチから話そか」と素直に応じた。ベッドの中で体の向きを変えて、振り返った私と目が合うようにする。
そしてイケボを作って続けた。「時は公民権運動の嵐吹き荒れる50年代アメリカ…」
「どこから始めんだよ!」凛子さんが言葉を遮る。
「さすがうちのツッコミ担当」ニコッと嬉しそうに笑う葵さん。
「バイトあんだろ真面目にやれ」
葵さんは私にペロッと舌を見せてから、横になったまま改めて口を開いた。




