第82話 土砂降りと軽音部 その2
それはまぎれもなく咲ちゃんがインスタにアップした動画の効果だった。
楽器屋さんで私が演奏するあの動画を見た別のクラスの軽音部のひとが、お昼休みに声をかけてきたのだ。
軽音部の3年生の引退はまだらしく、しかもその人は部長さんで、こっちが恥ずかしくなるくらい私のカッティング奏法を褒めてくれた。
するといつの間にか私のマネージャーと化していた咲ちゃんが「ええこと思いついた!」と声を上げ、その場で軽音部での実演を提案したのだ。
「え?!」っと驚いておろおろする私をよそに、すぐさま部長さんと咲ちゃんの間で話が決まる。
そういう成り行きで放課後、私は軽音部の部員と即席バンドを組むことになった。
お客さんは軽音部員31名とクラスメイト8名、あと咲ちゃんの後輩を合わせて計46名。けっこう多い。ギターは部長さんのものを借してもらった。
楽曲は軽音部の2人 (ドラムとベース)と私が演奏できるということでNUMBER GIRLとTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの曲に決まる。
どちらも日本を代表するロックバンドだ。
練習なし、一発勝負の演奏。
2曲だけの即席ライブだったけどミスもなく、特にベースの男子のボーカルの上手さもあって予想以上に盛り上がった。
演奏後は咲ちゃんが対バンの宣伝をしたり、セッションしたり、あと軽音部のひとの質問に答える形でギターを実演したりした。
「カッティングの時の左手のミュートってどんな感じでやってるんですか?」
「あ…それはこんな感じで」
「先輩がストラトキャスター使ってるのはやっぱり音のこだわりですか?」
「いや…あれはもともとお父さんので」
「なんで軽音部入らなかったんですか?」
「それは…先輩のヤンキーが怖くて」
そんなことをしていた時。ブレザーの右ポケットでスマホが震えた。
「ちょ…ちょっとすみません」
直感的に凛子さんからだと思い慌てて椅子を立つ。そのまま廊下に出た。
確認するとやっぱり凛子さんからのLINE。
もしかして今日の華さんとの因縁を教えてくれるっていう約束が無理になったんじゃ…?
恐る恐るメッセージを確認する。
『春香 急なんだが』
「あーやっぱり…」私はため息混じりに肩を落とした。
『葵も今日来ることになった』
「え? 葵さん?」
予想外のメッセージに画面を2度見する。バルの夜バイトはどうしたんだろう?
『そういうわけだから予定より30分早くウチに来てくれ』
頭の中で「あなた神大生のくせに『そういうわけ』の使い方おかしくない?」と疑問を抱きつつも即座に返す。
『わかりました』
スマホをポケットにしまって軽音部の部室にすぐに戻った。
「すみません!用事ができたので帰ります!」
いきなりの事に驚く部員やクラスメイトに何度も謝ってカバンを背負う。
そばに来た咲ちゃんを見ると「事情は察したぜ」という顔だ。
「あとはこの敏腕マネージャー咲ちゃんに任せなさい」と肩を叩いてくる咲ちゃん。「軽音部全員に対バンのチケット売ってやらぁ!」
熱血モードの彼女に後のことをすべて託し、私は一礼してそそくさと部室を出る。
お昼からの悪天候で外は土砂降りだった。




