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BLUE in the ガールズバンド  作者: あまだれ24
80/83

第80話 名探偵咲ちゃん再び その3


「あーもう! ほんっとにムカつく!」


異人館をバックにした撮影を終えて北野坂を徒歩で降りながら、また私はそう声に出した。


周りに誰もいなかったら大声を上げながら地団駄を踏んでいたかもしれない。


「春ちゃんずっとそれ言うてるなー」


隣を歩く咲ちゃんが呆れた声を出す。

私は今のこの気持ちを分かって欲しくて必死に言葉を並べた。


「だってホントにめちゃくちゃ腹立つんだもん! 忘れかけた頃に華さんのあの顔が頭に浮かんで来てさ!なんだよ1000円くらいで偉そうに!」

「もう2時間も前の話やんかー」


苦笑して肩をすくめる咲ちゃん。


2時間ほど前。私たちは華さんと話し合ったカフェを出て予定通りに北野の異人館に向かい、インスタに投稿する用の動画と写真を撮影した。


監督と撮影はもちろん咲ちゃんだ。


彼女はその場で撮影したものをチェックして「ガチで映えるやつ撮れた!」と喜んでいたけど、私はその間も華さんとのやり取りを思い出して、怒りを抑えるために拳を握り締めていた。


今なら凛子さんが華さんを嫌煙する理由が分かる。ただただシンプルに、あの人はすーっごく嫌な性格なのだ。


彼女と同じ音楽の天才的な才能がありながら、謙虚を絵に描いたような蘭子さんとは大違いだった。


「なあ春ちゃん、そこまで腹立つなら...」


咲ちゃんがそう言った時、私たちは本来ならケーキを食べる予定だったお店の前を通り過ぎた。


彼女は名残惜しそうに、その二階建ての建物全体が白亜のケーキ屋さんを目で追う。


窓から見える店内はしくも今はいている。


ケーキを諦めたのは単に予定よりお金を使いすぎたからだ。咲ちゃんが欲望に負けてピザのランチセットとパスタを注文したのがその原因なんだけど…


「ちょっとぉー、途中で言うのやめないでよ」


そう言うと咲ちゃんはハッという顔をして、改めて私を見た。そして咳払いしてから真面目な声で続けた。


「そのですな警部...そこまで腹が立つならいっその事、華さんが盗作している事を暴露してしまえばと思いましてな」


「それはダメ!」私は即答する。そういうことじゃないのだ。


「でも最大の反撃やで?」

「そうだけどそうじゃないんだよ」


私は気持ちが上手く言葉にできないせいで、しどろもどろになりながら喋った。


「華さんの性格はさ...嫌いだよ。すっごくムカつくし。でも...オリジナル曲は本当にかっこいいんだよ...だから」


ただ盗作をやめて欲しい。それだけだ。華さんの音楽生命を断つことにはなんの意味もない。


「華さんが音楽を続けられなくなるようなことは...絶対にしたくない」

「うーん。春ちゃんもなかなか複雑なマインドの持ち主ですなぁ」


咲ちゃんは歩きながら顎に手を当て、遠くを見るように目を細めて、難しい顔をする。


「まあ...試合の勝ち方としては確かにせこい(・・・)なぁ」

「うん。すーっごく卑怯な勝ち方。そういうのはロックじゃないから絶対にダメなんだよ」


私は深く頷く。するとなぜか咲ちゃんがクスッと笑った。


「なんで笑うの?」と思っていると、いきなり手のひらでバシッと強く背中を叩かれる。けっこう痛い。


「な...なに?」驚きのあまりキョトンとしていると咲ちゃんは優しい笑顔で続けた。


「私は春ちゃんのそういう不器用なとこ、好きやで」

「えっ? どういうこと?」

「大丈夫、大船に乗ったつもりでおってや。今夜は徹夜してでも動画完成させるから!」


そう言うとまた私の背中をバシバシ叩いてくる。


「もう痛いってば!」

「春ちゃんやったら正々堂々華さんに勝てる!名探偵の私が保証する!」


咲ちゃんは突然坂道を下るスピードを少し上げた。私の数歩先を行きながらチラッと振り返ってくる。


「春ちゃんらがいつもミーティングで使う元町のコメダ行こ。そこで動画編集の方向性の打ち合わせしよ!」

「どーせまた何か食べるんでしょ」


私は肩をすくめてため息をいた。


咲ちゃんのことだ。喫茶店に入って我慢できるはずがない。


「お金ないもん。カフェオレで我慢する!」

「ほんとかなぁー?」

「探偵に二言(にごん)はないで!」


咲ちゃんの背中を追って歩速を上げる。


10月末にしては暖かな午後の日差しの中、私たちは北野坂を小走りで駆け下りた。


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