第79話 名探偵咲ちゃん再び その2
「きゅ...92枚ィ?!」
咲ちゃんの口から出た予想外の数字に、私は思わず変な声が出た。
たまにマスオさんみたいな声が出てしまう。
だってだって、アールティーでは40枚ぐらいって言ってたはず。それがなぜか倍以上の枚数になってる。
「あの...いくらなんでも嘘つくのはどうかと...」
小声で咲ちゃんにそう疑義を呈した。さすがにそうとしか考えられない。
すると彼女は横に首を振った。
「さっきピザ来るの待ちながら葵様に連絡取ってん。そしたら葵様の方でも48枚の予約があって、こっちとの合計が92枚。しかも『まだいける』って言うてた」
咲ちゃんが改めてそう答えると華さんは「へえ...」と小さく声を漏らす。
「あんたたち...思ったよりファンいたのね。それとも凛子が土下座でもしたのかしら」
いかにも面白くないという口調で華さんは肩を竦める。
「すごい...もうそんなに売れてたんだ」
いつの間にか状況が好転してる事を知って、胸の奥が熱くなった。
今までの集客数からは信じられないことだけど、そんなにも大勢の人達が私たちの力になってくれているのだ。
「春ちゃん、頭なんか下げへんでも絶対に150枚いけるで。私も帰ったら今日中にあの動画編集してインスタに上げるから!」
咲ちゃんがガッツポーズを向けてくる。
私は大きく頷き返した。そしてその瞬間、今度こそ覚悟を決めた。
「華さん、ハンデは要らないです。元のルールのまま正々堂々と対決しましょう。それでゼーッタイに勝手みせますから!」
すると華さんは呆れたと言うように大きくため息を吐き、これみよがしに肩を竦めた。
「あっそう。そうなの。意地張ったせいでボコボコに負けて泣いて後悔しても知らないからね」
仏頂面でそう吐き捨て、残りのタルトをフォークで荒っぽく突き刺して一気に頬張る。
「じゃあルールはそのまま。チケットは先に100枚を売り切った方が追加で申請する。それで行きましょう」
華さんは早口でそう言うと口元をおしぼりでサッと拭い、ショルダーバッグを肩にかけて立ち上がった。
「そうだチンチクリン」華さんはベレー帽をかぶり直しながらまたチラッと見てきた。
「なんですか...?」と身構えると彼女は黙って伝票を手に取った。
「これはTRUE BLUEの勝利の前祝いで奢っとくわ。せいぜい頑張ることね」
不敵な笑みを浮かべて華さんは軽やかに歩き出す。
「あっちょっと!」
追いかけてラテ代の1000円を押し付けようと椅子を立ち上がりかけた時、咲ちゃんが私の手をギュッと握った。
「挑発に乗ったらあかん。好きにさせといたらええねん。これスポーツでも鉄則やで」
「で、でも...」
私は彼女とレジの華さんを交互に見る。
たった1000円だけど勝ち逃げされたみたいで凄く悔しかった。
「くそ...絶対に絶対に対バンで勝ってやる!」
私は椅子に座り直すと、階段に消えてゆく華さんの背中にべーッと舌を突き出した。




