第78話 名探偵咲ちゃん再び その1
「あんた...あたしたちを尾行してたの?」
華さんが露骨に眉をひそめる。警戒心むき出しの険しい表情だ。
咲ちゃんは左手の親指と人差し指でV字を作り、それを顎にピッタリ当てる。キメ顔を作った。
「この名探偵咲ちゃんを撒こうなんざぁ百年早いって話よ」
「名探偵だかなんだか知らないけどさっさと自分の席に戻んなさい。ピザ持ち歩いて...あんたマジで行儀悪いわよ」
華さんが苛立たしげな声を出す。
すると「おー。これは失敬」と肩を竦め、右手にピザを持ったまま華さんの隣の一脚余ってる椅子にサッと座った。
「ちょっと! 座っていいなんて許可してないじゃない!」
「まあまあ。そう細かいこと言わんと」
咲ちゃんは華さんの抗議も意に介さず、デニムのポケットからスマホを取り出す。
「春ちゃん、ハンデ貰うために頭下げるなんてカッコ悪い事したらあかんで」
咲ちゃんが真面目な顔で私の目を見た。
その言葉に心臓がドキッとなる。さっきのやり取りをしっかり聞かれていたのだ。
咲ちゃんは手のピザを口の中に押し込みながら片手でスマホをササッと操作すると、その画面を自信満々の表情で華さんに突きつけた。
「さーて華さんとやら...これはなんのリストかお分かりですかな?」
「バカ言いなさい。そんなの分かるわけないでしょ」
「ではお教えしましょう...これはですね、春ちゃん側のチケット購入者のリストです!」
咲ちゃんがニッと不敵に笑った。
その言葉を聞くなり、それまで目を釣りあげてイライラしていた華さんの表情が変わった。
驚きに目を大きく見開き、ジッと画面を凝視する。
「この数字...本当なの?」
「ほんまやで。今の時点でもう92枚売れてる。正確には『チケットの取り置き予約してる人数』やけど」
「きゅ...92枚ィ?!」
咲ちゃんの口から出た予想外の数字に、私は思わず変な声が出た。




