第76話 ラフィングスターズの末裔 その5
「えーっと...つまり私たちを対バンで倒すことが華さんの誓いってことでいいんですよね?」
念の為そう確認を取る。すると華さんはまた闘志剥き出しの目で大きく頷いた。
「そう! あたしはあたし自身の誇りの為、そして誇り高き先祖の為に必ずあんた達を正々堂々とぶっ倒してやるの!」
華さんの燃える瞳が私の顔をジッと見つめてくる。くりくりと大きな目だ。やっぱり第一印象の時と同じで猫みたいな目だなと思った。
そのとき女性の店員さんが来て「こちらお下げします」とアールグレイが入っていたグラスを持っていく。
私は「ありがとうございまーす」と軽く頭を下げてから、またちびりとラテを飲んだ。
こちらをまだ強い視線で見つめている華さんを眺めながら、ハァ...と心の中でため息を吐く。それから思ったままを呟いた。
「盗作してるのに正々堂々もないと思うけどなぁ...」
「それはそれ!これはこれよ!」
「えぇ...」
やっぱりこの人すっごく自己中心的だ。対バンを挑んできたのも結局彼女の都合だったってことじゃん。
私は呆れながら言った。
「もういいじゃないですか。TRUE BLUE売れてるんですから。盗作は絶対ダメですけど」
「よくないの!あたしのプライドの問題なのよ!あたしのプライド!」
オシャレなカフェなのに声を荒らげて私の顔を指さしてくる華さん。もう今すぐにでも帰りたかった。
「あ...帰る前にひとつ聞いていいですか?」お財布を出して千円札を探しながら聞いた。
「いやなんで勝手に帰ろうとしてるのよ?!」華さんが声を上げるけど無視して続ける。
「ひょっとして...あの日ライブ中にスタッフさん経由でメモを渡してきたのって、そもそも対バンを挑むためだったんですか?」
「そうよ。他に理由なんてないじゃない」
はじめてTRUE BLUEのライブを見たあの日、凛子さんが渡されたメモの話だ。『夜8時半 JR元町駅前 南側ベンチ』という指示だけが書かれていた。
腕を組んだ華さんは何を当然の事をという顔をする。それを聞いて私はホッとし、テーブルの上に渋沢栄一の千円札を置いた。
「じゃあどの道対バンは挑まれてたんですね。それ聞けただけでもよかったです。ずぅーっと私のせいだって思ってたから気が楽になりました」
そう言って椅子を立とうとした。
でもその瞬間、また華さんが呆れた声を出した。
「あんた...なかなか自己中なのね」
「え?」私は意味がわからず腰を浮かしかけて動きを止める。
「だってそうじゃない。気が楽になるもなにも対バンを受け入れたのはあんたよ。そのせいで大勢の前で敗北することになるのに...よくそんな風に言えるわね」
腕を組んだまま不敵に笑う華さん。予想外の事を言われて私はかなり戸惑った。
だって一方的に対バンを申し込んで来たのは彼女だ。そんなことを言われる謂れはない。
「いやいや...それは華さんが無理やり」
「でも断らなかったじゃない。つまりあんたらはね、あんたの判断ミスで滅ぶの。みっともない責任回避は辞めなさい」
背筋に冷汗がつぅーっと流れた。
そこまで言わなくたって...と思ったけど、すぐに気付く。
そうだ...華さんがそのプライドにかけて倒そうとしているバンドのメンバーに、当たり前だけど私も入っている。
そして私こそ、理由は知らないけどリベンジを違うほどの思いで脱退を決めた華さんの、その後任ギタリストなのだ。
私はきっと私が思ってる以上に、華さんの深い恨みを買っている。
「それでチンチクリン...結局どうするのよ?」
「えっ?」
私はまた目をパチパチさせた。すぐには何の事を言われてるか分からなかったのだ。
「だからチケットの枚数よ。どうするのか今ここであんたが決めなさい」
華さんは私の目を見、ニヤッと笑って続けた。
「あんたがここで『お願いします』って頭を下げるなら、ハンデを付けて100枚ずつにしてあげる。もし下げないなら...追加分の100枚は全部TRUE BLUEが貰ってあげるわ」




