第75話 ラフィングスターズの末裔 その4
「ラフィング...スターズ?」
まったく聞き覚えのない名前だった。しかもその末裔となるとますます意味が分からない。
けど華さんは開いた右手を心臓の上に当て、とても誇らしげな顔をする。まるで宝塚俳優みたいなポーズだ。
「そう!あの伝説のラフィングスターズよ」
「伝説の...?」
「驚いたでしょ。まあ無理もないことだけど」
「えっと...ラフィングさんって誰ですか?」
正直に尋ねると彼女は両目を丸く見開き、メデューサでも見たようにフリーズした。
そんなに驚かれるような事なのかな...と首を傾げてラテをちびりと飲む。
とりあえずググッてみようとスマホを取り出すと同時に、華さんの石化が解除された。
「あっあんたラフィングスターズを本当に知らないの?!」
「そんなに有名なんですか? ひょっとして昔の俳優さんとか...」
「人名じゃないわ! バンド名よ!」
「バンド?」
私はまた首を傾げた。これっぽちも聞いた事がことがない。
「あんた...本当に神戸のバンドマン?」華さんが信じられないという顔で見てくる。
「失礼な。れーっきとした神戸のバンドマンですよ。小学校までは千葉の船橋市に住んでましたけど」
「船橋?」
なぜか華さんが驚く顔をする。そして少し早口で言った。
「あたしも船橋の出身よ」
「えっうそ?」
「うそじゃないわ。実家は津田沼のイオンモールのすぐ近くよ」
イントネーションで関西の人じゃないのは分かってたけど、さすがに地元が同じって事までは気付かなかった。
しかも津田沼のイオンモールは習志野市とのちょうど境にある、お父さんの運転する車でよく行った場所だ。
「めっちゃ懐かしい。そこよく家族で買物に行ってましたよ。フードコートでたまにステーキ食べさせて貰ったなぁ」
「あんたもしかして...あたしの実家の近所に住んでたの?」
偶然の地元の一致に目を丸くしていた華さんは、そこでハッという顔をした。
「ふ...船橋の話はいいの。それよりあんたが神戸のバンドマンの癖にラフィングスターズも知らないって事のほうが大問題よ」
「悪かったですね大問題で」
彼女は気を取り直すようにグラスに直接口をつけて、残りのアールグレイを一気に飲み干す。そしてまたパーにした手を自分の心臓の上に置き誇らしげに続けた。
「ラフィングスターズはね、神戸で活動した日本初のプロのジャズバンド。伝説のバンドなのよ!」
「ま...またジャズか...」
デジャブに似たものを感じて困惑した。凛子さん、葵さん、それに華さん。なんでこの人達は相手が知ってる前提でジャズの話をするんだろ。
ワンチャン私の知らないところで流行ってるとか...?
「で...そのラフィングスターズの末裔が華さんってどういう意味なんです?」
「そのままの意味よ。あたしの名前は岩波華。名高きラフィングスターズのメンバーの曾孫なの」
華さんは左胸に手を当てた宝塚ポーズのまま続けた。
「だからあたしはね...偉大な曽祖父の誇りの為にもあんた達に勝って、あの日の脱退が正しかったことを証明しなきゃいけないのよ」




