第74話 ラフィングスターズの末裔 その3
「そしたらあんたらがボロ負けした時、凛子や葵が言い訳する材料を与えちゃうでしょ?」
「うわぁ...」
TRUE BLUE側のチケット販売の遅い理由が思っていた以上にゲスくて、私は思わず両手で手で口を覆った。
TRUE BLUEと私たちの人気に歴然と差があることは事実だけど、腹立たしいことに華さんは私たちが負ける前提で考えてる。
「死ぬほど性格悪いですね」
「そう? もしあんたらがTRUE BLUEに勝ったらその時は舐めてたことを謝ってやるわよ。勝てればの話だけどね」
うわームカつく...と奥歯をギリギリ噛み締めていると、店員さんが注文を持ってきてくれた。
私はカフェラテのホット。華さんはアイスのアールグレイとショコラのタルトだ。
「ここのアールグレイ美味しいのよ。ライブ前と練習後のミーティングは大体ここでするんだけど、うちのメンバーもよく頼むのよね」
そう言ってさっそくストローでアイスティーを飲み、美味しそうな顔をする華さん。
ミーティングのために毎回千円以上するドリンクを平気で頼むなんて、お金に困ってないバンドしかできない。
私たちには絶対無理だ。
「お金に余裕...あるんですね」
「そりゃTRUE BLUEだもの」
当たり前でしょと言う顔をしてくる。
またイラッとしたけど我慢して、気をまぎらわせるために目の前のラテを口に運んだ。
「あっ...おいしい」
思わず言葉が漏れる。コーヒーの風味はしっかり濃い。けど濃厚なミルクの自然な甘さが苦味を和らげていて、すっごく飲みやすい。
すると「でしょ?」と満足気な声が聞こえた。
ハッと顔を上げると案の定、華さんが勝ち誇ったような満面の笑みを浮かべている。
「ね? ここはコーヒーも紅茶も美味しいのよ」
「こっ…コメダのオーレだっておいしいですっ」
コメダ狂の凛子さんじゃないけど、いつも飲むコメダのカフェオーレを見下された気がして咄嗟にそう言い返していた。
あーやだやだ。華さんは嫌味っぽくて苦手だ。
早く話を済ませて咲ちゃんの所に戻ろう。そう決めてこちらから先に話を切り出した。
「それで…なんで私をわざわざ呼び止めたんですか?」
すると彼女はフォークだけで綺麗にタルトを切りながら、チラッと上目遣いで私を見る。
「対バンのチケットの事だけどね、ルール変更してあげてもいいわよ」
「ルール変更?」
「そう。お互いにチケットの追加販売は無し。100枚限定で勝負するの」
あまりに意外な提案すぎて少し混乱した。
だって...そんな事しても華さんには何の得にもならない。得しないどころか、本来なら得られるはずのチケ代の利益まで失ってしまうのだ。
しかも私たちはゲスト扱いだから、ライブハウスの高額なレンタル代を支払う必要がない。
チケットの枚数を減らすことは、明らかにTRUE BLUEだけが損を被るルール変更だった。
「ひょっとして…私たちに情けをかけるんですか?」
「馬鹿ね。さっき言ったばかりでしょ、あんたらが負けた時に言い訳の材料を与えないって」
フォークをお皿に置いて顔を上げ、まっすぐ私の顔を見てくる華さん。
その目は真剣だった。冗談で私をからかってる雰囲気じゃない。
だから彼女が向けてくる戦意の強さが肌で分かり、私は思わずたじろいだ。
「どうして...そんなに私たちを目の敵にするんです? 私が盗作を批判したこと...そんなに怒ってるんですか?」
すると華さんはキッパリと首を横に振った。
「違うわ。あのレコードの事は関係ない。ただあたしはね、脱退を決めたあの日...いつか絶対あんたたちのバンドに勝つって誓ったの」
そして私の目を睨むように凝視して続けた。
「ラフィングスターズの末裔としてね」




