第73話 ラフィングスターズの末裔 その2
「ちょ...ちょぉーっと高くないですか?」
私は手にしたメニューからゆっくり顔を上げた。自分でも顔が引き攣ってるのがわかった。
だってカフェラテが1杯1000円もするのだ。コメダ珈琲のオーレの倍近い。
「そりゃ凛子の大好きなコメダに比べたらね。でも都会のカフェならふつうでしょ」
正面の席に座る華さんがつまらなそうな声でそう言った。
「そりゃそうですけど...」
私はまたため息を吐く。このあと咲ちゃんと北野坂のオシャレなケーキ屋さんに行く予定まであるのに、ただの話し合いでコーヒーに1000円も使うとは思ってなかった。
場所はパイ山からすぐのフラワーロードと呼ばれるエリアにある『GREEN HOUSE Wald』というオシャレなカフェだ。
ビルの1階から4階まで全部がそのお店のフロアで、名前の通り中には緑の植物が並んでいる。
私たちはその3階の壁際の2人がけの席で、向かい合って座っていた。日曜の午後1時半ということもあってかなり席が埋まっている。
「で、決まったの?」と華さん。
「カフェラテのホットにします」私はしぶしぶそう答えた。
もうちょっとお手頃なブレンドコーヒーなんかもあったけど、もし本格的な苦いのが来たらと考えたら、ここはミルクたっぷりのラテが無難だ。
華さんがQRコードを読み取ったスマホでまとめて注文するのを見ながら、そういえばカフェラテとカフェオレの違いって何なんだろう...と疑問に思う。
「あの...華さんはカフェラテとカフェオレの違いって何か知ってます?」
「それぐらい自分で調べなさいよ」
なんだよその言い方とイラッとしながら仕方なくスマホでググろうとすると、華さんが続けざまに口を開いた。
「そんなことよりチンチクリン、あんたらのチケットは今どんな感じなの?」
「どんな感じって...どういう意味ですか?」
「だからどれぐらいハケてるのかって事よ」
私はスマホから顔を上げ、相手の表情からその質問の意図を読み取ろうとした。どうしてそんなこと聞くんだろう?
すぐにハッとする。そしてその顔を改めてまじまじと見つめた。
「なによ?」と華さん。
「もしかして...チケットの売上をバカにするためにわざわざ私をここまで連れてきたんですか?」
すると彼女は目を見開きギョッという顔をした。
「いっ...いくらなんでもそこまで性格悪くないわよ! なんてこと言うのよ!」
「えーっ?」
簡単にはその言葉を信じられず、私はなおさら警戒心を強くする。だって相手は平気で盗作する華さんだ。さすがに私もそこまでお人好しじゃない。
「じゃあ...まずは華さんが自分が答えてくださいよ。TRUE BLUEの方はチケットの売上どうなんですか?」
「まだ販売も取り置きもしてないわよ」
「へー凄いですね、まだ販売も取り置きもしてないんですか」
そう言って私は頬杖をついて窓の外を見、少し遅れてきょとんとした。
「え...? まだ販売も取り置きもしてない...?」
驚きのあまりほとんどオウム返しになる。
今度の対バンのルールでは300枚強あるチケットの内、まず100枚がお互いに与えられてる。もしそれを売りきったらVery'sに申請し、さらに追加で売ることが出来るのだ。
当然、販売や取り置きと呼ばれる当日券の予約が遅くなればなるほど、集客は不利になる。
なのにまだ販売も取り置きも開始していない...?
「だからそう言ってるでしょ。TRUE BLUE側のチケットの販売と当日券の取り置きは3日後、水曜日からよ」
「な...なんでそんな」
私がその意図を理解できず混乱していると、華さんはニヤッと笑みを浮かべた。
「だって神戸の若手ナンバーワンの人気のTRUE BLUEが今日から販売を開始したら、初日でチケットを全部売り切るに決まってるじゃない」
そして不敵な笑みのまま続けた。
「そしたらあんたらがボロ負けした時、凛子や葵が言い訳する材料を与えちゃうでしょ?」




