第70話 バズれ!大作戦 その4
ピックを構えた右手を一気に振り下ろし、アタックを利かせてコードを鳴らした。
一発目から張り詰めた響きのナインスコード。
背後のマーシャルアンプが歪んだ音を吐き出し、学校の教室ほどの広さの店内にストラトキャスターの鋭いサウンドが響く。
そこから16分音符の高速カッティングでスパニッシュ風のコード進行を掻き鳴らす。
高速のリズムのまま左手のレガート奏法を混ぜ、四拍子と三拍子を行ったり来たりしながら、蘭子さんに教えてもらった代理コードを混ぜて疾走させた。
これはいつもライブのメンバー紹介の時に弾くギターリフだ。
ライブの持ち時間の都合に合わせてショートバージョンとロングバージョンがあるけど、誰かの前でロングバージョンを弾くのは今日がはじめてだった。
チョーキングを交えた速いランフレーズを即興で加え、そしてまた最初の激しいコードのカッティング奏法に戻る。
田渕ひさ子から学んだ瑞々しくも荒々しいカッティング、RUSHから学んだ聴く人が驚くような大胆なコード進行。
そのふたつを私なりに表現した曲だった。
1分ほど全力で弾きまくり、少し息を切らして演奏を終える。
それから撮影中だったことをハッと思い出して、咲ちゃんのスマホに向かってまた深々とお辞儀した。
顔を上げるとまたピコッとスマホが鳴る。咲ちゃんがぼんやりした顔でこちらを見ていた。
「あ、あの...撮れた?」
そう尋ねると咲ちゃんは覇気のない小さな声で「うん」と頷いた。
しまった。やっぱりインスタで求められるのはもっとオシャレで陽キャっぽいやつなのか。
「ごめん!撮り直そう!」そう提案しようとしたとき、咲ちゃんがスマホを片手に持ったまま両手で私の右手を勢いよく掴んだ。
「すごい春ちゃん! 春ちゃんってこんなにギター凄かったん?!」
「え?」
予想と真逆のリアクションをされた驚きでたじろぐ。絶対もっとポップで映えそうな曲で撮り直しだと思ったのに。
「カ...カミングコウベのオーディションの時より少しは上手くなってる...かも?」
自信なく答えた。自分ではあまり分からない。
「春ちゃんギター上手いですよね?!」咲ちゃんが振り返って中村さんと浅井さんに聞く。
「いやぁ...びっくりしたねぇ。そりゃあの葵ちゃんが上手いって褒めるわけだ」と顎に手を当てる中村さん。
「びっくりしたかもです」浅井さんが相槌を打って両手をパチパチ叩いた。
「ほら!やっぱり春ちゃんは凄かったんや!」
咲ちゃんがはしゃぎながら何度も両手で私の両肩を強く叩いてきた。その度に左肩をスマホの角で殴られる。
「痛い!それ痛いってば!」
「気にしなさんな!」
また肩を遠慮なくバシバシ叩いてくるので、私はわざとオーバーに痛がる表情をする。
でも本当はそんなに痛くなかった。
ただ、褒められて照れてる顔をみんなに見られるのがすごく恥ずかしかったから、大袈裟なリアクションで誤魔化した。




