第69話 バズれ!大作戦 その3
咲ちゃんの巧みな誘導でまんまとハメられたと気付いたけど、今さら撮影を中断できる雰囲気じゃない。
咲ちゃんだけじゃなくて、店長の中村さんもその横で腕を組んでこっちに笑顔を向けている。カウンターの向こうには女性スタッフの浅井さん、さらに2人組の若いお客さんまでいる。
いつの間にか店内の全員が私を注視していた。
引くに引けない。そう思い、ようやく本当に覚悟が決まった。
「あの...」私は中村さんに声をかけた。
「どうしたの?」と初老の中村さんは渋い声で答える。
「このマーシャル使っていいですか?」
そう言って私は近くにあった中型のマーシャル社製アンプを指さす。するとスタッフの浅井さんが中村さんの合図で長めのシールドを持ってきてくれた。
浅井さんからシールドを受け取ると、お礼を言って手早くアンプとギターに繋いだ。
ギターはフェンダーUSA製のストラトキャスター。私がストラト使いだと知って選んでくれている。
床に片膝をついてアンプの設定をする。迷わない。このタイプのマーシャルなら機種ごとの違いはそんなに大きくないはずだ。
素早く設定を済ませると、最後に財布からいつも持ち歩いている予備のピックを取り出した。
「じゃあ...よろしくお願いします」
緊張した私は咲ちゃんや中村さんたちに向かって深々と頭を下げ、アンプ前に置かれた試奏用の丸椅子に腰を下ろした。
「春香ちゃんが本気で弾くところはじめて見るかもね」と中村さん。
「あー。そう言えばそうかもです」と浅井さん。
「それでは...撮影開始!」スマホを構えた咲ちゃんが映画監督のような口調で告げる。
ピコッと動画撮影の始まる音がした。
ごくりと唾を飲む。息を吸いながら右手をゆっくり胸の高さまで上げ、ダウンストロークの構えに移した。
大丈夫だ...いつもやってるみたいに弾けばいいんだ。
息を吸うのをピタッと止める。
一拍置いて、ピックを親指と人差し指で軽く挟んだ右手を、素早く振り下ろした。




