第68話 バズれ!大作戦 その2
アールティーを出ると、すぐさま私たちは三宮のセンター街にあるセンタープラザという商業施設に向かった。
向かったというか...本当は咲ちゃんに手を引かれて無理やり連れてこられたんだけど。
センタープラザは2つの建物、センタープラザとセンタープラザ西館に別れている。
センタープラザのほうはオフィス階を含む地上19階、西館は8階建て。迷路みたいな地下にはご飯屋さんがずらーっと並んでる。
『OCTAVARIUM』
それがセンタープラザ西館の2階にある楽器屋さんの名前だ。
もともとは葵さんがベースのメンテナンスを定期的に頼んでいるお店だった。ギターもベースも時々メンテしないと人間みたいに調子が悪くなるのだ。
その葵さんのオススメで私もここでメンテを頼むようになっていた。
「春ちゃん! 撮影OKやってー!」
咲ちゃんが満面の笑みでカウンターの前からこっちを振り向く。
「うそでしょ...」
私は呆然と咲ちゃん、そしてカウンターの中から笑顔で親指をグッと立ててくるオーナー兼店長の中村さんを見た。
なんでOK出しちゃうんだよ...
咲ちゃんの立案したTRUE BLUE打倒のための作戦は、具体的にはこうだ。
まず私の行きつけの楽器屋さんでギターを借りる。これはうちに取りに帰るより早いのと、楽器屋さんの店内っていうオシャレな背景が欲しいかららしい。
その次に私のギター演奏動画を店内でオシャレに撮影して、咲ちゃんがそれを匠の技で編集する。
そしてそれをフォロワーが200人近くもいる咲ちゃんのインスタに投稿するのだ。
投稿を見たひとが興味を持ってチケットを買ってくれるかもしれない、というのが咲ちゃんの大作戦だった。
「ほんじゃ気持ち引き締めてくで!」
カウンターから戻ってきた咲ちゃんがまたガッツポーズしてくる。
「ま...マジでやるの?」
「あたり前やん。そもそも春ちゃんのバンドが勝つためやねんで?」
「そ...それはそうだけどさ...」
やっぱり陰キャの私にはインスタは怖い。
すると咲ちゃんがすごく真剣な声を出した。
「あんな春ちゃん。お願いやから聞いてな...」
「な、なに?」
「春ちゃんはな、ちょっと他人に何でもかんでも任せすぎやで」
心臓がドキッとする。突然そんなことを言われた驚きで、すぐには否定も肯定もできなかった。
「だって対決することになったのも、TRUE BLUEのひとが決めたんやろ?」
「う...うん」
「負けた時のペナルティの交渉もせんかったんやろ?」
「うん」
正直に頷くと咲ちゃんはため息を吐いた。
「ほらー。いっつも誰かが作った流れに身を任せてるやん」
「た...確かにそうかも」
咲ちゃんの言葉がグサリと胸に刺さる。
言われてみると思い当たる節が多かった。自分からライブの企画を出したり、何かを決定したこともない。
いつも凛子さんや葵さん、そして蘭子さんに任せっぱなしだった。というより日頃からそんなのばっかりだ。
自分で重要な決断をしたことなんてほとんどない。
「春ちゃんよ!」
「はっ...はい」
「今こそ自分で決断して運命を変える時やで!」
咲ちゃんがまっすぐ私の目を覗き込んで来る。炎が揺らめくような熱い眼差しだ。
その凄く純粋な思いにちょっとウルッと来た。
そうだ。私も来年で成人だ。そろそろ自分で決断して前に進まなくちゃダメなのかもしれない。
「わかったよ咲ちゃん!私弾くよ!だから撮影お願い!」
「そうこなくっちゃ!」
「はいよ春香ちゃん」店長の中村さんがチューニングを終えたギターを渡してくれる。
お礼を述べて受け取る。そのとき咲ちゃんをチラッと見ると何故かニヤニヤと目を細めていた。
ギターを構えた時ようやく「あっ」と気付く。
もう一度スパイファミリーのアーニャみたいな薄笑いを浮かべてる咲ちゃんを見た。
しまった...と後悔する。
物の見事に咲ちゃんのペースに流されていた。




