第67話 バズれ!大作戦 その1
「ほ...ほんとに撮るの?」
私はギターを抱えた状態で、真剣な表情でスマホを構える咲ちゃんに改めて聞いた。
すると咲ちゃんはやたら気合いの入った声を出し、自分の顔の前でギュッと拳を握る。
「あったりめぇよ! もう許可だって取ってるんやから」
場所は三宮センタープラザという商業施設にある楽器ショップの店内。
話は30分ほど前に遡る。
まだインド料理屋さんでの事だ。突然咲ちゃんに「春ちゃんにも一肌脱いでもらう」と言われたのだった。
「あの...一肌って具体的に何をやらされるのですか?」
「春ちゃんのバンドってインスタやってないやんな?」
「うん。そのはずだけど...」
凛子さんと蘭子さんはインスタを連絡ツールとしてしか使ってない。
葵さんは泣きながらバイクを手放す前はツーリングの動画をよく投稿してた。けどバンドの動画はひとつも上げてなかったはず。
「うむ。やはり作戦は決まりじゃ」老師のような口調で頷く咲ちゃん。
「なんか...嫌な予感しかしないんだけど...」
「そんなことないって」
「じゃあ作戦ってのは?」
「春ちゃんのギター演奏をインスタにアップしてバズらせる大作戦!」
「ほらぁ〜」
途中からそんなことだろうと思ってた。だって陽キャの子はなんでもかんでもインスタに投稿するもん。
陰キャの私からしたらSNSの投稿なんて猫のかわいい動画だけで十分だ。
「やだよ。だって下手したらネットに一生残るんだよ?」
「別に迷惑動画ちゃうねんからええやん」
「やっぱ咲ちゃんは陽キャだよ。私みたいな陰キャはインスタとかもう怖いもん」
全力で拒否っていると、咲ちゃんがおもむろに両腕を伸ばしてきた。その両手で私の右手をギュッと包み込むように握る。
「春ちゃん。私が6年間の陸上部生活で学んだことはなんやと思う?」
「サニ・ブラウンのフォームとか?」
「いやそう事じゃなくて...」
がくっと肩を落とす咲ちゃん。それから気を取り直して、改めて真剣な眼差しで私を見てきた。
「目標は自分の努力で叶えるものって事やねん!」
「いや...もうすでにかなり咲ちゃんの力を頼ってるような」
私はそう言って抵抗したけど、彼女の意思は固く揺るがなかった。




