第65話 日曜日よりの使者 その4
「ところで春ちゃん。本日我々が結集した目的である作戦会議に移ろうと思うんやけど」
咲ちゃんは大きなナンをあっという間に食べ切ると、唐突に厳かな口調でそう言った。
テーブルの上に両肘を付いて手を組み、その上に顎を乗せこっちをジッと見つめてくる。すごい。雰囲気だけは海軍大将の赤犬みたいだ。
「こんなシリアスな咲ちゃん...はじめて見たかも」
「なに言うてるん。いっつもシリアスやで」
「で...やっと何の作戦会議か教えてくれるわけだ?」
「おいおい春ちゃん、教えるもなにも作戦会議いうたらテーマは決まってるやん」
咲ちゃんはため息を吐き、首をゆっくり左右に振った。やれやれ...と全身で語っている。けど私はちっともピンと来ない。
「ごめん。全然わかんないや」
「うそやん!」
組んでた手が崩れてガクンとなる咲ちゃん。するとその様子を見た店員さんが何かあったのかと小走りにやってきた。
咲ちゃんはその機を逃さずメニューを開いて料理の写真を指さし、「チーズナンと...このサモサってのお願いします!」と追加注文する。
どんだけ食べるんだろ...と呆気にとられていると、彼女はまた真面目な顔を向けてきた。
「春ちゃん1週間後にTRUE BLUEと対決するんやろ?」
「あ...うん。Very'sってライブハウスで対バンしてお客さんに投票してもらってさ…それで負けたら私がTRUE BLUEに入らなきゃいけないんだよね」
「知ってるで。葵様からLINEで全部聞いてるから」
「だからその葵様って呼ぶのやめて」
けど咲ちゃんは構わず続けた。
「でな、作戦会議ってのは、どうやって春ちゃんのバンドを勝たせるかってことやねん」
「えっ」
そこで私の頭の中で点と点が結びつく。思わず、あっ、と声が出た。
「ひょっとして...葵さんにチケットの事頼まれたんじゃ?」
「正解」親指を立ててウインクする咲ちゃん。
「ダメだって! これ私たちのバンドの問題なんだから咲ちゃんが利用されちゃ」
私はあわてて腰を上げ、咲ちゃんのその手を両手でギュッと握り親指を下ろさせる。
同時に怒りの感情が湧いた。なにが葵様だ。いくら葵さんでも咲ちゃんを利用することだけは絶対許さない。
そのとき、咲ちゃんの左手が私の両手の上にそっと重なる。私の手よりもずっと温かかった。
「利用するとかされるとかちゃうやん。ピンチの時ぐらい親友を頼ったらええやんか」
「いや...でも」
「ていうか今さら断られても遅いんやけどね」
「ん? どゆこと?」
私は意味がわからず首を傾げた。すると咲ちゃんは悪戯小僧が悪だくみでもするみたく、ニィーッと不敵に笑う。
「実はねぇ、すでに40枚ほどチケット売れてます」
「ぇえーっ?!」
驚きのあまりマスオさんみたいな甲高い声が出た。あわてて自分の口を手で抑える。
きっと他のお客さんがこっちを迷惑そうに見てたと思うけど、それよりも今は困惑が勝っていた。
チケットの販売は今日から始まったのに...もう40枚?
その意味がすぐには理解できない。ただ、両手を腰に当てドヤ顔をしている咲ちゃんをぽかーんと眺める。
そうしていると店員さんが追加で注文したチーズナンとサモサを笑顔で持ってきてくれた。




