第64話 日曜日よりの使者 その3
2024年10月27日 日曜日。
生まれてはじめてインドカレー屋さんでごはんを食べた。
なんでここで作戦会議なのか咲ちゃんに聞くと、昨日たまたま入って美味しかったからだそうだ。
なんというか、すっごく彼女らしいと理由だと思う。
あとでググッてみると本店は葵さんの住む新長田にあるらしかった。
「で...咲ちゃん。作戦会議って何の作戦会議なの?」
無料サービスのスパイシーなインドのお煎餅を食べながら、念のため声を潜めて聞いた。
するとあっという間にお煎餅を食べ終えた咲ちゃんは、周囲をキョロキョロしてから、また真面目な顔でじっと見つめてきた。
いつも思うけど本当に綺麗な二重の丸い目だ。陸上部を引退してもう2ヶ月以上になるから、肌もずいぶん白くなってる。
「春ちゃん...水臭いこと言わんといてや」
「どういうこと?」
私がまたきょとんとしていると咲ちゃんは苦笑して肩を竦めた。
「だからライブの事やん。TRUE BLUEってバンドと対決して負けたら春ちゃん、TRUE BLUEに入らなあかんのやろ?」
「えっなんでそれ知ってるの?!」
驚きのあまり半立ちになる。
咲ちゃんはそんな私を見てカバンをごそごそすると、スマホを取り出し画面を見せてきた。
LINEのトーク画面だ。
しかも相手は見たことあるアイコン。おしゃれなバーのカウンターらしき場所で撮影されたブランデーのグラス。葵さんの3代目アイコンだ。
「すべて葵様から聞いたのさ」
「そういえば...ごはん奢ってもらったあと連絡先教えあってたよね」
「そう。葵様が私と直々にLINEの交換を...んふふ」
「お願いだからその葵様っていうのやめて」
とろんとした目で明後日の方向を見ている彼女に強めに言った。
そのとき店員さんが料理を持ってきてくれる。
私はカレーライスとサラダのセット。
咲ちゃんは3種類のカレーに大きなナン、ライス、さらにサラダが付いたなかなかの量のセットだ。
「いただきますっ」咲ちゃんは真剣な声と顔で手を合わせた。
さっそく焼きたてのナンをちぎり、たっぷりカレーをつけて大きな口で頬張る。
美味しそうな顔をする咲ちゃんを見て、私も人生初のインドカレーを口に運んだ。
「おおっ」
「どうよ春ちゃん?」
「スパイス効いてるしめっちゃコクある」
「でしょでしょ」
「これハマるかも...」
「いいねー。じゃあ私らでカレー同盟結成やね」
ほとんど同時に笑う。ひとしきり笑ってから、私はずっと気になってたことを尋ねた。
「ところで咲ちゃんさん」
「なに?」
「なんで時々キョロキョロしてるの?」
すると彼女はまた辺りを見渡してから顔を近付けてきた。私も耳を寄せる。
「だってTRUE BLUEの手下がおるかもしれんやん」
「咲ちゃん...葵さんから一体何を吹き込まれたの?」
「TRUE BLUEのリーダーは手段を選ばないそりゃもう恐ろしいやつだって」
華さんが手段を選ばないのはある意味そうだ。失くした才能を取り戻すためには盗作も厭わない。
けどなんでだろう...葵さんが意図的に咲ちゃんに誤解を与える伝え方をした気しかしない。
「そんな心配いらないって。別に華さんはギャングのリーダーでも何でもないから」
「そうなん? 武闘派の手下をぞろぞろ引き連れてるイメージやってんけど」
そんなわけない。
私は大きくため息を吐いた。葵さん...あなたは咲ちゃんに一体どんな嘘を教えたんだ。




