第61話 透明少女 その4
今朝の寝覚めは最悪だった。
寝起きからお尻が死ぬほど痛いなんて、17年間生きてきてはじめてだ。
夢の中で蘭子さんの乗った電車を追って暗いホームを走ってたら、運動音痴の私はすぐ足がもつれて転倒した。
すると信じられないことに、現実でも同じタイミングでベッドから落下した。
「痛っ...痛っつー」
床で骨盤を強打して一瞬で目が覚める。
なんとかベッドに這い上がって、まくらに顔を伏せズキズキするお尻を摩った。
午前5時24分。
顔を上げるとデジタル時計の表示が目に入った。
横になったのが夜の8時頃だから、かなり寝てたんだなと思う。
「あっ! やばっ!」
すぐにハッとして、痛みに耐えながらデジタル時計の横のスマホを手に取った。
しまった…
Spotifyが起動中のままだ。寝落ちしたせいでひとつのアルバムがずっとループ再生されている。
ナンバーガールの『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』だ。
心の中でナンバーガールに謝って、誰も聴いていないSpotifyを止めた。
「あれ…イヤホンは?」
その時はじめてイヤホンが2個ともどこにもないことに気付く。けど寝てる間に外れてしまう事はよくあるので、この時は気にも止めなかった。
あとで探せばいいやと思い、とりあえずLINEを確認した。
今日は日曜日。
つまり対バンのチケットの発売はもう始まってる。何か大事な連絡が来てるかもしれない。
でも特に凛子さんからも葵さんからも新しいメッセージは届いてなかった。
ホッとするようなムズムズするような、何とも言えない気持ちになった。
チケットの管理は普段から大人組の3人、特に凛子さんが担ってる。だから私には現時点でのチケットのハケ具合も分からない。
こっちから聞けばいいんだけど、まだ早朝だし、それ以上にTRUE BLUEとの人気差を思うと…やっぱり怖かった。
スマホをそっと元の場所に置く。
腰の痛みが和ぐのを待ってから、肌着のキャミソールを着替えた。寝汗でびっしょり濡れて気持ち悪かったのだ。
まず上のスウェットを脱ぐ。次にキャミソールを脱ごうとして、そうだ...と手を止めた。
どうせならシャワーもしたい。
歩くとまだ腰がズキズキしたけど、欲望に負けた私は脱いだスウェットと着替えを両手に抱え、キャミソールのまま部屋を出た。
「寒っ」
慎重に階段を下りながら、あまりの寒さにブルっと震える。もうほとんど冬の朝の空気だ。
キャミソールから出てる二の腕を指でなぞるとめちゃくちゃ鳥肌が立ってて、横着したことをすごく後悔した。




