第59話 透明少女 その2
蛍光灯の青白い光だけがほの暗く照らす、トンネルのような場所。私以外には誰もいない。
空気は冷んやりしてるけど、どこか淀んでいて湿っぽい。
あまりにも不気味な空間だった。
おかしい...
理解できない現象が、私の身に起きている。
「どどどど...どうしよ...」
恐怖のあまり脚がガクガクと震え出す。背筋、肩、手へとあっという間に震えが広がる。
帰りたい
今すぐ帰りたい
涙がとめどなく溢れてきて、ぐにゃぐにゃと視界が歪んだ。
恐怖と震えでもう立っていられなくなり、崩れ落ちるように地べたに両膝を突いた。
「咲ちゃん...凛子さん...」
藁にもすがる思いでそう呻く。
その時。涙と目眩でぼんやり霞む視界の中に、ある違和感を見つけた。
「あれ?」
私の服装がいつの間にか変わっていたのだ。
部屋でパジャマ代わりに着てたGUのグレーのスウェットじゃない。
昼間着てた薄手のアウターにロンT、ライトブルーのデニムという格好だ。
そういえば手に持ってたはずのスマホと両耳のイヤホンがどこにもない。
そこでハッとする。
「これ...ひょっとして夢?」
たちまち体からスーッと力が抜けて、その場でぺたんと尻モチを着く。
嘘みたいに恐怖心がどこかへ消え去り、安堵の笑みが漏れた。
「なんだよ...夢なら夢って言ってよー」
まるで長距離走を走り終えた後みたいに急に体がぐったりした。
心臓もまだバクバクしてる。汗もドッと吹き出してくる。凄い疲労感だ。
嫌なくらいリアルな夢だった。
「まあでも…そうと分かれば怖いものなしだ」
地べたがかなり冷えていて、長く座っているとお尻まで冷たくなってくる。
私はよろよろ立ち上がると、お尻を両手でパンパン叩いた。
それが神社で柏手を打つ音みたいになってトンネルに反響する。
コンクリートの欠片なのか、デニムに付いていた細かい砂がパラパラと落ちた。
「さて...これからどうしよ」
何となく立ち上がってみたものの、もちろん行動予定なんてない。
とりあえず改めて周囲の様子を確認した。
明かりは天井の蛍光灯だけ。だいたい10メートル間隔で青白い光がトンネルの奥へと続いている。
時々チカチカと明滅する古ぼけた蛍光灯がはっきり照らせるのは、ほとんどその真下ぐらいだ。
あと気のせいかも知れないけど、何か知っているにおいが薄らと漂ってる。
そのにおいの正体を探ろうとジッと目を凝らし、トンネルの中をゆっくり見渡した。
「あれ? ここって」
そこでようやく気付く。
ずっとトンネルか地下道だと思っていたそこは、そのどちらでもなかったのだ。
蛍光灯の薄暗い光がほとんど届いていない場所に深い段差がある。
その暗闇の中に、ぼんやりとそれは伸びていた。
レールだ。
電車が走るためのレール。
今さら私は、ここが地下鉄のホームである事を知った。




