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BLUE in the ガールズバンド  作者: あまだれ24
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第54話 誰しも天才になりたかった その3


「どうして盗作なんてみっともない事したんです? 音楽をやってる人間が1番やっちゃダメな事ですよね?」


私は相手の手首を改めてギュッと握り締めた。


すると華さんはゆっくり目を逸らす。そしてぶっきらぼうな声でこう答えた。


「あんたには…分かんないわよ」


「そりゃ分かんないですよ!」


思わず感情が抑えられなくなる。


私は今日はじめてTRUE BLUEのライブをこの目で見た。


観客の多くの目当てはたぶん、あのレコードの不思議な音楽の再現だ。


けど、オリジナル曲で拳を突き上げて乗っている人達だって少なくなかった。


なぜなら華さんの創ったオリジナル曲はめちゃくちゃ格好良かったからだ。


あんなに凄い曲が出来るのに盗作に頼る。


それが理解できなかった。


「なんでなんですか? オリジナル曲だって充分かっこよかったじゃないですか?」


そう詰め寄ると、不意に私の握る手首が震え出した。


そして力任せに私の手を振りほどく。


「だから…だからあんたには分からないって言ったんじゃない! 」


こちらを睨み付け、ずっと押さえつけていた何かが爆発したように荒々しい声を上げる。


その様子に(ひる)む私の肩に、後ろから誰かがトンッと手を置いた。葵さんの手だった。


「なあ華…自分だって分かってるやろ。あのレコードはこの世に1枚やない。それにあの音楽を完全にコピーするのは不可能やって」


「それがどうしたって言うのよ?先に発見したのはあたしなの!蘭子じゃないわ!あたしの自由よ!」


華さんは手の甲で目元をゴシゴシと拭う。声もかすかに熱っぽく濡れている。


「そうじゃ…そういう事じゃないですよ」


発明品の特許じゃないんだ。誰が先に見つけたかなんて関係ない。


「もし盗作ってバレた時はどうするんですか」


「じゃあその日まではあたしが天才じゃない! 」


子供みたいに地団駄を踏む華さん。


すると後ろで葵さんが溜息を漏らした。


「春香ちゃんも今日はもうええやん。ほら、このままやとあの子が凍死するわ」


そう言われて振り向くと、凛子さんが両腕で自分を抱いて泣きそうな顔でガタガタ震えている。


「じゃあ2人は先に帰ってください。私は華さんを説得します」


「あかんよ。もう10時回ってるんやから未成年の春香ちゃんを置いて帰られへん」


葵さんが大人の顔をする。


私はその顔と震えている凛子さんを交互に見てから、仕方なく言った。


「じゃあ華さんをウチに連れて帰ります」


「いや行くわけないでしょ!」


即座に拒否する華さん。


「なら今はこれだけ教えてください」


私は連れて帰ることを諦めて尋ねた。


「盗作で売れても『売れればそれでいい』って本気で思ってますか?」


すると華さんは、たちまち憎々(にくにく)しげな目付きで見返してきた。


「天才の音楽って言うのはね…突然どこからともなく、完成した形で頭の中に流れ出す物なのよ」


思わず息を飲む。


まったく同じ台詞を以前、蘭子さんからも聞いた事があった。


「蘭子さんも…それ言ってました。どこからともなく頭の中で曲が響き出すって」


「そうよ。彼女は間違いなく生まれつきの天才。だからあの子の曲にはね、凡人じゃ思いつかない芳醇なメロディが溢れてる」


そして苦しげに続けた。


「あたしもね…昔はそうだったのよ。でもある日突然、頭の中のメロディが止んだの」


「えっ?」


「蘭子ほどじゃないけどね…それでも、あたしだって天才の側だった。そのはずだったのよ」


太ももの位置で固く握りしめた彼女の拳が、誰の目にも分かるほど震えていた。


「それを…それをあたしは取り戻したと思ったの! あのレコードを見つけた時…あたしの才能が戻って来たんだって!」


大きく見開いたその目に、透明な膜のように涙が溢れた。それが大粒の雫となって頬を伝う。


「人はね…誰だって天才になりたいのよ。あたしはそのチャンスをまた手にしたの!」


嗚咽の混じったその声に呼吸が苦しくなる。


華さんは涙で濡れた目で私を見つめ、はっきりと言った。


「どれだけみっともなくったってね、あたしにはこうするしかないのよ」


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