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BLUE in the ガールズバンド  作者: あまだれ24
52/80

第52話 誰しも天才になりたかった その1


「おい春香? 春香ってば!」


「はぁーい…聞こえてますよ…なんですか?」


私は息も絶え絶えに答えた。右手の甲で額の汗をぐっと(ぬぐ)う。


「返事ぐらいしろよな」とドラムキットの向こうから凛子さん。


何度も彼女に呼ばれていることには気付いてたけど、こんなに肩で息をしてるんだ。


声が出ない事くらい見りゃわかると思うのに…


もっとも、その凛子さんは私よりも遥かに汗で濡れている。


汗だくなのにちっとも息が上がってないのはやっぱり、体力作りのために毎日走ってるからだろう。


ドラマーはギタリストやベーシストと違って半分スポーツ選手だ。


「Dメロのキメ、ちょっと遅れてるから私のドラムの音もっとよく聴けよ」


凛子さんは肩にかけたスポーツタオルで顔と首の汗を拭いながら、そう指示を飛ばす。


「あと葵、お前のベースは少し跳ねさせすぎだ。春香のリズムが崩れる原因になってる」


ドラムスティックで葵さんを指す。すると葵さんは不思議そうに肩をすくめた。


「それはリズムで演奏支えるはドラマーのあんたの仕事。そもそもこの曲はファンクテイストやねんからベース跳ねさせんでどうするの?」


「にしても跳ねさせすぎだ」


「自分の気のせいちゃうの?」


眉をひそめる凛子さん。葵さんは目を細めて余裕の笑みを返す。


バチバチ火花の散りそうな2人の視線。


もー。蘭子さんがいないとすぐこれだ。


完全防音の密閉された空間をピリピリした沈黙が包む。


エアコンの空調の音だけが静かに響く。


めちゃくちゃ気まずい…


場所は三宮の練習スタジオ。私が凛子さんに誘われてはじめてバンドで演奏したスタジオだ。


今日は2024年10月26日土曜日。


華さんと会ったあの日から3日が経っていた。


「わかりましたって! ちゃんとリズム気を付けますから!」


ギターを肩に掛け直しながら私は声を上げた。


凛子さんも葵さんも自分の音楽観が強すぎて、音楽に関してはゼーッタイに譲らない。


というかバンドマンはそういう人が本当に多い。


まあ音楽が好きでバンドやってるんだから当然の事なんだけど。それにしてももう少し仲良くやって欲しい…


「それから春香」と不意に凛子さんの厳しい声。


私は鋭い眼光を向けられてビクッとなった。


「なっなんですか?」


「お前はもっと演奏力を鍛えろ。あと1週間しかないんだ。今のままだと…お前のギターじゃ華には勝てないぞ」


その言葉に葵さんも黙って頷く。


2人の視線がまっすぐ私に刺さる。


一瞬、華さんの他人(ひと)を小馬鹿にする表情が脳裏をよぎった。


その時。私の中で何かがフツフツと煮えたぎってきた。


「誰が華さんより下手って言うんですか?!」


思わず叫ぶと、葵さん凛子さんが同時に真顔で私の顔を指さしてくる。


「そうですかそうですか上等ですよ! あんなやつ1週間後に私がギャフンと言わせてやりますから!」


(はらわた)が煮えくり返る気持ちで改めてギターを構えた。目の前にまたしても華さんの憎い顔が浮んでくる。


練習再開の前に急いで弦のチューニングをする。

6弦から順にEADGBE。レギュラーチューニングだ。


「よし。じゃあもう1回やったら5分休憩するぞ」


凛子さんがドラムの椅子に腰を()え直す。


「いらないです!時間もったいないんで練習続けましょう!」


すると葵さんがのんびりした声を出した。「それは困るわ。ウチおしっこしたいんやから」


「我慢してください!」

「殺生やなぁ」


ドラムスティックを打ち鳴らすカウントがカンカンと響く。


その音を聴きながら無意識に、あの日、華さんが対バンを挑んできた時のことを思い出していた。


華さんのTRUE BLUEと私たちのバンドの直接対決。


決戦の日は来週の日曜日。


蘭子さん不在のまま、その日のために、私たちは蘭子さんの残した未完成の新曲を完成させようとしている最中だ。


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