第50話 ホンモノとニセモノ その4
「蘭子が失踪しただぁ?」
華さんの素っ頓狂な声が神戸の夜の街に響く。
コメダを出た私たちは今、大丸神戸店にほど近い広い歩道の上にいた。
夜8時に閉まる大丸はもうとっくに今日の営業を終えていて、明かりも消え、日中の賑わいが嘘みたいだ。
夜こそ賑わう三宮の北側の歓楽街エリアとはいくらも離れていないのに、対象的なまでに静かで、昼間とは別の町のように閑散としている。
「うそでしょ?」と半信半疑の様子の華さん。
「本当だ。先月の末に突然姿を消して、まだ見つかってない」
腕を組んだ凛子さんが静かに答える。
少し間があって、華さんが呆れた声を出した。
「先月の末って…それもう1ヶ月前じゃない」
「せや。ウチら、その間ずっと蘭子の行方の手がかりになるものを探してんねん」と葵さん。
「警察には?」
「蘭子の両親の方から失踪届が出されてる。でもそれもほとんど1ヶ月前の話だ」
「なにそれ。それであんたら探偵ごっこしてるってわけ?」
華さんはため息混じりにそう呟き、背中に担いだギターケースを背負い直す。それからもう一度これみよがしに大きく息を吐いた。
「私にはちっとも関係ないじゃない。他当たってちょーだい」
その場でくるりと向きを変える。凛子さんがいつも別れ際にそうするみたいに背中越しにサッと軽く手を上げ、そのまま歩き出そうとした。
「ちょぉーっと待ってください!」
私は両腕を広げてその前に立ち塞がる。
「…なに?」
「レコードの話がまだですよ」
私がまっすぐ目を見据えて笑顔でそう告げると、華さんは「チッ」と舌打ちした。目を逸らして眉をひそめる。
露骨なまでにバツの悪そうな顔だ。
「逃がさへんで」葵さんが後ろから華さんの肩に手を置く。
「げっ」という表情で華さんが逃げ道を探して葵さんの反対側に目を走らせると、そこには腕を組んだ凛子さん。
「さ…3対1は卑怯じゃない」
華さんは消え入りそうな声でうめき、正面の私、左右の葵さん凛子さんを何度も見回す。
そして逃げられないと悟ったらしく、今にも泣き出しそうな顔でギュッと肩をすぼめた。
なんとなく、猫の群れに追い詰められた小さなネズミみたいだ。
「華、もう諦めろ。レコードの事を洗いざらい話せ」
「ううっ…」
観念した華さんは、あの『幻のレコード』を手に入れた経緯を白状した。




