第48話 ホンモノとニセモノ その2
それはそうと…とハムサンドを頬張りながら考えをめぐらせた。
華さんからあの『レコード』をどこで手に入れたのか聞き出したいけど、果たしてそう簡単に教えてくれるだろうか。
とりあえずコメダに来たけど私には何もアイディアがない。
そう思った時。
「そうや華」葵さんが声を出した。
ふと何かを思い出したという感じの、きわめて自然なトーン。
けど私と凛子さんはすぐその意図を察して、同時にピタッと食べるのをやめる。
凛子さんは食べかけのハンバーガーをお皿に置く。
私は緊張を覚えながら目の前の葵さん、そして隣の華さんへと視線を走らせた。
「なによ?」
華さんは食事を途中で邪魔されて鬱陶しげな声を出す。
ちょうど最後のエビカツパンにかぶりつこうとしていたところだ。
「ひとつ聞きたいことあるんやけど…ええかな?」
「嫌」
即座に冷たい声で突っぱねる。葵さんの顔を見ようともしない。
「もうこのバンド辞めたんだからあたしにそんな義理ない。それにどーせくだらない事でしょ」
「連れへんなぁ。質問くらいええやん」
葵さんは目を細めて小首を傾げ、甘ったるい声を出す。
まるでホステスさんがお客に接するみたいな調子だ。
どうにかしてあの『レコード』の事を聞き出したいのは私も同じだけど、何もそこまで…。
モヤモヤして凛子さんをチラッと見る。
すると彼女も同じ気持ちだったらしく、「ゲッ」という表情でホットコーヒーを飲んでいた。
「な? ええやろ?」
数秒後、華さんは根負けしたらしく、深々とため息をついて頷いた。
「ハァ…それでなに?」
エビカツパンをお皿に戻し、ホットコーヒーの白いカップを手に取る。
「今日のはええライブやったなぁ。アマとは思えんくらいお客さん入ってたやん」
葵さんが引き続き甘ったるい声と笑顔で媚びる。
「当然でしょ。あたしがリーダーなのよ」
コーヒーを飲みながら淡々と応じる華さん。
けど褒められるのはまんざらでもないらしい。
正面の凛子さん葵さんからはカップで隠せていても、横から見ると、口角がキュッと上がってニヤケた口元が丸見えだった。
「Very'sのスタッフの子に聞いたけど、いま神戸の若手で1番人気のバンドやねんてな」
「そーね。でもまぁ、あたしの圧倒的な才能があれば当然の結果よ。このバンドで燻ってた頃の方がおかしかったのよね」
華さんはコーヒーをテーブルに置き、もうニヤニヤを隠そうともしない。
セミロングの髪を指先でくるくるしながら、優越感に満たされた笑みを浮かべている。
と、そのとき初めて私に視線を向けてきた。
「チンチクリンもよーく身の振り方を考えた方がいいわよ。このバンドにいたって一生陽の目なんて見れないんだから」
「なっ…」思わず声が出た。
バンドをやっていると売れない事を馬鹿にされたり、嫌味を言われたりすることはある。
でもそれをTRUE BLUEの華さんに言われるとすっっっごく腹が立つ。
「だいたい今どきあんた達みたいなバンドは売れないのよ。硬派なのは勝手だけど売れなきゃね、いつか解散するしかない」
華さんが私の目をまっすぐ見てそう重ねる。
その顔からはもう、さっきまでのニヤニヤが嘘みたいに消えていた。
「あんた、まだ高校生だと思うけど…その事ちゃんと覚悟してる?」
「じゃあ売れないことよりズルして売れる事の方が正しいって言うんですか?!」
いきなり真剣な視線を向けられて動揺し、迂闊にもそう口走りかけた。
そのときだった。
「ご高説ありがたいんやけどな…華」葵さんが再び口を開く。
「なに? 気に触った? 本当の事だから謝らないけどね」
華さんは葵さんに一瞥もくれず、澄ました顔でまたコーヒーカップの縁にそっと口をつける。
でも葵さんは相手の塩対応も意に介さず、能面みたいな笑顔を浮かべている。
そして華さんに顔を寄せそっと囁いた。
「盗作して成功するって…どんな気持ちなん?」
その質問を聞いた瞬間、華さんは両目を丸く見開き「ぶーっ!」とコーヒーを逆噴射した。




