第44話 その名はTRUE BLUE その5
TRUE BLUEの1曲目の演奏がようやく終わる。
10分を超える長い曲だった。
そしていま私は確信する。
TRUE BLUEはあのレコードの音楽をコピーしている。
あの不思議な楽曲を完璧じゃないにしろ、そうやって自分たちのオリジナルとして演奏することで、いま注目を集めている。
ずるいと思った。
だってそれはTRUE BLUEのオリジナルじゃない。
私の中で、蘭子さんの事とは別に華さんに直接聞いてやりたいことができた。
「アーティスト目指してる人間が他人の作品をパクるって…どういうつもりだよ」
どんな作品だってそのひとがこれまで生きてきた人生があって生み出される。
人生で経験したことが、そのひとの音楽の1音1音に刻み込まれる。
その小さな1音を選ぶために、ひょっとしたら何年も何十年ももかかったかもしれない。
だから、他人の作品をパクることは許されないんだ。
そう思ってステージを睨んでいると次の曲が始まった。
その曲では華さんはサックスをエレキギターに持ち替える。青いストラトキャスターだ。
「う、うそ…」
私は目をパチパチさせた。困惑して咄嗟に左右を見る。
すると私の気持ちを察したらしい凛子さんと葵さんがこちらを見てから、サッと目をそらした。
華さんが肩にかけているフェンダー社製の青色のストラト。
それは偶然にも私のギターとまったく同じものだ。
唖然としているあいだに2曲目がはじまる。
意外にもその曲はストレートなロックンロールだった。
1曲目とは明らかに雰囲気がちがう。
ツーバスドラムとコードのカッティングで突き進む、王道のロックソング。
私がそのサウンドの落差に驚いていると、葵さんがそっと耳元で囁いた。
「これは華ちゃんが昔作ったオリジナル曲やな」
「え?」
予想外の言葉にきょとんとする。
すると葵さんが続けた。
「レコードの収録時間はな、1番大きいLPレコードでも裏表合わせて1時間。でも音質のこと考えたら40分が限度」
「それが何か…?」
「せやから、単独ライブをやり切ろう思ったらレコード1枚のコピーじゃ間が持たんねん」
「あっ」
なるほど。
納得してあらためてステージを見た。
それでびっくりした。
華さん、めちゃくちゃギターが上手い。信じられないほどの高速カッティングを正確にキメている。
というか、バンドの全員がアマチュアとは思えないほど演奏力が高い。
なんでこんなに実力があるのに他人の曲を盗んだりするんだろう…。
そんな疑問を抱きながら、TRUE BLUEの演奏する4曲目を聴いている時だった。
観客の中を背後から男性のスタッフさんが来て、凛子さんに何かを手渡した。
見るとレシートのような白い紙だ。
「何ですかそれ?」
そう尋ねると、その紙を開いていた凛子さんが目を大きく見開き、弾かれたようにステージを睨んだ。
私も凛子さんの視線を追ってステージを見る。
再びサックスをかまえた華さんが、不敵な笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。




