第36話 ジャズとロコモコ その3
「ごちそうさまでした!」
午後7時半頃。私たちはお店を出た。
お店の2階の入口を外に出たところで咲ちゃんが元気よくお礼を述べる。
礼儀正しく90度に腰を折って、深々と頭を下げた姿勢。
こういう姿を見るとやっぱり咲ちゃんは真面目なスポーツ女子なんだなと思う。
一方の私はいつもの感じで軽く頭を下げた。
「それにしてもええ食べっぷりやったね」
「えへへ。恩に着まーす」
「あ、そう? ほんならインスタのフォローかLINEの連絡先でも交換しよか」
「ま、まじっすか?!」
「もちろんやん」
あたふたとカバンの中のスマホを探す咲ちゃん。
底まで掻き回してやっと見つけると、迷わず即座にLINEを起動させるのが見えた。
「こ、これを!」
自分のQRコードを差し出す。
葵さんが笑顔でカメラを向けた。
「はいはーい」
「でも…『ほんなら』ってどういう意味ですか?」
咲ちゃんは葵さんがスマホでQRコードを読み取ってから首を傾げる。
私は「もう…」とため息をついた。
「深い意味なんてないよ。ただ、ウチらが次ライヴする時は咲ちゃんの友だちも誘って欲しいなーって。やっぱりみんなで盛り上がったほうが楽しいやん?」
「わかります、やっぱりイベントはみんなでワイワイやるほうが楽しいもん!」
「せやろ。だからその時は頼むで咲ちゃん」
「任せといてください!」
咲ちゃんが自信満々の表情でドンッと自分の胸を叩く。
見事に葵さんの術中にはまってる。
まあ、知り合いのツテでお客さんを呼ぶのは正攻法だから、葵さんは間違ってはいないんだけど…
でもなんだか煮えきらない。
「なんなん春ちゃん、そんなムスッとして」
「べつに…」
凛子さんも葵さんもそういうところはリアリストだ。
けどもし今ここに蘭子さんがいたら、きっと私の味方をしてくれるはずだ。そう思った。




