第30話 港町Diary その3
「いやー。今日は休みを満喫できましたなー」
「それはよかったですねー」
私たちはumieの1階にあるベンチに腰を下ろし、目の前のクレープ屋さんディッパーダンで買ったクレープを食べた。
あっちこっちの服屋さんを見て回る咲ちゃんに引っ張り回されてもうクタクタ。
座って休憩しながら食べるクレープが美味しい。クリームの甘さが体に染み入ってくる。
「春ちゃんは服あんまり買わんかったね?」
「咲ちゃんが買いすぎなんだって。マジでいくら使ったの?」
「春ちゃんよ、こういう時のために部活の練習無い日にバイト入ってコツコツ貯めるんやん」
「凛子さんもだけど、趣味のためにたくさん働ける人ってすごいよ。ほんと尊敬する」
咲ちゃんは「へへへ。どーも」と照れ笑いしてクレープの残りを口に押し込む。
そしてすぐ2個目にかぶりついた。咲ちゃんはいくら食べても太らないから羨ましい。
「そや。春ちゃん知ってた?」
「なに?」
「ほら。あの玉転がしマシンみたいなんあるやん」
咲ちゃんがクレープを食べながら指さす。
そこには普通の建物なら2階ぐらいの高さになる、ガラス張りの大きな機械のようなものがある。
ただ延々とビリヤードの玉に似たボールを転がし続ける不思議な存在。
時々「カーン」と鐘の音を鳴らすナゾの物体。
だいたいいつ見ても小さな子供たちが周りに張り付いて目を輝かせている。
「あれの名前知ってる?」
「名前とかあるの?」
「うん。なんかディンドンって名前でアメリカの芸術家が作ったんやって」
「えっ。あれ芸術作品だったんだ?」
もう一度玉転がし機を振り向く。
うーむ…確かにそう言われると芸術に見えて来る気が。いや…やっぱりよく分からん。
「でもなんで名前知ってるの?」
「今月な、ここの映画館で『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の再上映やっててん。神戸で再上映する映画館調べてたらな、それでたまたま『umieのディンドン』って記事が出てきてん」
「まさか鬼太郎に導かれるとは…」
ふと建物のガラス張りの外の様子が目に入った。
私の表情に気付き、咲ちゃんも振り向いて空模様を窺う。
まだ雨は降り続いていた。