第29話 港町Diary その2
「おーっす春ちゃーん」
息を切らして神戸駅の地下街にあるサンマルクに着くと、LINE通り咲ちゃんがいた。
私を見つけて嬉しそうに手を振ってくる。
テーブルの様子から、どうやらランチを食べていたようだ。
「ハァ…なんで…ハァ…こんな早く…」
私が手の甲で額の汗を拭いながら尋ねると、咲ちゃんは優雅に食後のコーヒーを飲みながら答えた。
「いやー。気持ちが先走りましてな」
「うそ…でしょ…」
「いやいや。もう出かけると決まったら出かけへんなんて私には無理やもん」
「しかも…がっつりメイクしてるし…」
「あたぼうよ!」
デニムにGUのロンT、コンバースのスニーカー。そしてコンビニに行く時に着るユニクロのジャケットタイプの薄手のアウターという出で立ちの私は、バチバチにオシャレしている咲ちゃんをじっとり見つめた。
「ん? ああ、アウターにコート選ぶのはまだちょっと早かったかなー?」
「もう!」
私は立ったまま咲ちゃんのコップの水を奪って一気に飲み干した。
「で、このあとどこ行く?」
「ジャズナイトはたぶんこのまま中止だよ」
「んじゃumieでも行きますか」
umieはこの地下街デュオ神戸からすぐの所にあるモールの名前だ。
映画館やファッションブランドのお店、飲食店、それにアンパンマンミュージアムもある。
ジャズナイトの会場の高浜岸壁と同じハーバーランドという商業エリアにあるから、今日行く場所としては、まあ妥当だった。
「しゃーない。行きますか…」
「おー。では秋モノの服見ようぜー」
咲ちゃんがコーヒーの残りを飲み干して元気に立ち上がる。
私たちはサンマルクを出て、歩いてumieに向かった。