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BLUE in the ガールズバンド  作者: あまだれ24
27/77

第27話 あと半年


「あのさ春ちゃん」

「なに?」

「次の土曜にあるハーバージャズナイト行かへん?」


凛子さんの家であのレコードを聴いてからちょうど1週間後の火曜。


お昼休みの教室で咲ちゃんがそう誘ってきた。


「ハーバージャズ…ごめん何それ? 」


聞き覚えのない名前に私がきょとんとしている間に、咲ちゃんは私の前の席に座る。

いつも学食に食べに行くクラスメイトのイスだ。


「ハーバージャズナイト2024!」


私の机でお弁当をひろげながら、あらためてそう言った。


いつもこうやって一緒にお昼を食べていて、もちろんイスのご主人様の塔子ちゃんにはちゃんと許可をもらってる。


「いったいそれは何ですか咲ちゃん殿?」

「ええいっ、これが目に入らぬか!」


咲ちゃんはスマホをささっと操作するとその画面を見せてきた。


そこには夜景をイメージしたらしい紺色を背景に『ハーバー JAZZ NIGHT 2024』の文字が踊っている。


なるほど。どうやらジャズのイベントがあるみたいだ。


場所はハーバーランドという神戸港にある有名スポット。


「へー知らなかった、こんなのあるんだ。しかも金曜と土曜の2日も」


「そ。ハーバーランドの高浜岸壁ってところであるみたいなんだよね。しかも無料だよこれ!」


「オシャレなイベントだね、いかにも神戸って感じ。さすがお祭り大好きの咲ちゃん」


私が感心していると、咲ちゃんが肩をすくめてペロッと舌を出した。


「いやーほんまは私も昨日たまたま知ったんやけどね」


「やっぱり。アニソンとK-POPしか聴かない咲ちゃんからジャズの話題が出るから変だと思った」


私はお弁当のフタをあけ、ほうれん草のソテーをひとくち食べた。咲ちゃんは玉子焼きを頬張る。


食べながら咲ちゃんは続けた。


「春ちゃん最近ジャズ聴きはじめたんやろ? やったらええんちゃうかなーって」


「もらったCD聴いてるだけのウルトラ初心者なんだけどね」

「バンドのひとからやっけ?」

「うん。うちのドラマーの凛子さん」


「あっ、あのオーディションのときすっごいドラム叩いてたひとや」


咲ちゃんは私たちのバンドのライヴを1度だけ見たことがある。


ちょうど1年半前。

カミングコウベという同じハーバーランドで毎年開催されてる音楽フェスの出演者オーディションを受けたときだ。


そのオーディションは落選しちゃったけど、いつも部活で都合が合わない咲ちゃんに、はじめて私たちのライヴを生で見てもらうことができた。


「また紹介してよ。あのときはゴタゴタしてて遠目に見ただけやったもん」


咲ちゃんはご飯を口に運びながら言った。


去年のオーディションのあとは彼女の言うとおり、凛子さんと蘭子さんの大学の友達が沢山来てて紹介したくても出来なかった。


「そうだね。じゃあまた今度ライヴの時に…」


そこまで言いかけて私は言葉に詰まる。


ライヴは4人が揃わないと不可能だ。


すると咲ちゃんがちょっと身を乗り出し、私の左手を両手でギュッと掴んだ。


「春ちゃん」


私はハッとして目の前の咲ちゃんの顔をまっすぐ見た。

咲ちゃんも私の顔をじっと見つめている。


「春ちゃん、最近ずっとしんどそうやで。声かけても聞こえてないこと多いし」


「あ…ごめん」


「それはええねん。それよりたまには楽しいことしよ。せっかくの休みやし、それに私らもう来年の春には高校卒業やねんから」


「な?」と咲ちゃんがさらに強く手を握ってくる。


来年には卒業。


その言葉を私は頭の中でゆっくり繰り返した。


そうだ…


もし第1志望の国立に受かったら咲ちゃんは東京に行ってしまう。


そしたらきっと、もう今までみたいには会えなくなる。


忘れていたわけじゃなかった。

ただ、もっとずっと先のことだと思っていただけだ。


私は咲ちゃんの手を強く握り返した。


「うん、行こうジャズナイト」


「決まり! そうそう、キッチンカーも色々来るらしいんだよね」


「どーせ咲ちゃんはそっちがメインでしょ」


「へへへ」


「そうだ。せっかくだから咲ちゃんにも私が最近聴いてるジャズのリスト送っとくよ」


「おー。ライヴ前の予習ってやつですな」


目の前の咲ちゃんにLINEでリストを送りながら「半年」と思う。


あと半年もしたら私たちはたぶん離れ離れ。


蘭子さんのことも心配だけど、咲ちゃんは私の一番大切な親友だ。


今この時をもっと大事にしたい。そう思った。


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