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BLUE in the ガールズバンド  作者: あまだれ24
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第20話 新開地ブルース その3


「もしかしてその中に?」

「そうだ」

「でも…どうやって手に入れたんですか?」

「蘭子の両親から直接預かったんだよ」


凛子さんはアタッシェケースをテーブルの上で開ける。

中から大きな透明のジップロックに収まった四角いものを取り出した。


中身はもちろんレコード。


「どうして…蘭子さんの両親がこれを?」

「蘭子の両親から呼び出されたんだ。それで先週の土曜、私と葵で実際に大学で彼女の両親に会った。そのときこれを渡された」

「2人で会ったんですか? 私抜きで?」

「ああ」


私はその事実を知って戸惑う。


先週の土曜といえば凛子さんにコメダで会った日だ。

あのあと凛子さんは大学に用事があると言って、ひとりで駅まで歩いて行った。


つまりその後、葵さんと合流して蘭子さんの両親に会ったということになる。


「そのときこのケースごとレコードを手渡されたんだ。

本当は失踪する直前に蘭子から両親宛に送られてたそうなんだが、私に渡すべきか迷ったらしい」


凛子さんは続ける。


「けど、私の新しい住所を知らない蘭子が両親から渡してもらうために、私の連絡先を添えて送ってたんだ。

だから両親は私に託すことに決めた。

思ってた通りだ。蘭子はやっぱり失踪を事前に計画してたんだよ」


「凛子さん酷いじゃないですか。私には何も教えてくれなかったですよね?」


すごくショックだった。のけ者にされたと思い、私は凛子さんに抗議した。


同じバンドのメンバーなのにそれはあんまりだ。


「悪かったよ。でもお前はまだ高校生だろ。めんどうな事は大人に任せとけって」


凛子さんが私に背を向け、レコードを手に部屋のオーディオの前にしゃがむ。


「私だってバンドのメンバーですよ?」

「だから悪かったって。でも3人も行く必要ないだろ。そんな大勢で蘭子の両親に会ってどうするんだよ」


凛子さんは振り返らずにそう言う。


ぞんざいな言い方だ。私は腹が立った。


「私だって蘭子さんのこと心配なんですよ。今の今まで黙ってることないじゃないですか」


思わず口調が強くなる。


凛子さんが眉をひそめた怪訝な表情で振り返った。ふだん私に向けたりしない、苛立った刺々(とげとげ)しい顔。


でも怒ってるのはこっちのほうだ。


どうして私が高校生だからって理由で黙ってたんだ。

凛子さんがそんなことをするなんて信じられなかった。


「それって『大人の事情』ってやつですよね。ずるいですよ」


腹立ちのあまり自分でも思ったより大きな声が出た。凛子さんもびっくりした顔をする。


そのとき。


後ろから手が伸びてきて私の両肩にポンッと置かれる。

葵さんの雪のように白い手だった。


「凛子。あんたも変な言い訳せずに素直に言えばいいやん。春香ちゃんに余計な心配させたくなかったから、わざと呼ばんかったって」


「なっ…おまえそれは」


凛子さんがあからさまに焦った声を出す。


「そうなんですか?」

「ちがう、全然ちがう」


凛子さんの顔が赤くなっている。


うわ。めちゃくちゃわかりやすい。


「この子な、自分もまだガキのくせに春香ちゃんの前だとやたら大人ぶるから」


背後から葵さんがそう言う。

呆れの中に笑いを含んだ声。


23歳の葵さんからしたら凛子さんもまだまだ子供扱いらしい。


「あの…てっきり私、後から入ったメンバーだからそれでのけ者にされたのかなって」

「私がそんなことするわけないだろ。それよりほら、こっち来てここ座れって」


凛子さんはそう言って勢いよく立ち上がりオーディオの前を指さした。


まだ顔に高潮のあとが残っていて、なんだか私よりもずっとばつが悪そうだった。


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