第19話 新開地ブルース その2
凛子さんの部屋に入ると玄関の次は短い廊下、そしてその先にキッチンと一体化したリビング。
フローリングの床はまだ夏用の敷物。
こざっぱり片付いた空間にはベッド、ノートパソコンや小物を置いたラック、床に座って使うタイプの低いテーブルなどがある。
そしてあのRoland製の電子ドラム。
一人暮らしなのに部屋が少し広いのはきっと、これを置くためだ。
授業で使うのか小難しそうな本が並んだ本棚もある。
あと凛子さんらしく高そうなオーディオ、レコードとCDがぎっしり詰まった棚。
「にしても…意外とキレイにしてるんですね」
勝手にビールの空き缶がそこかしこに転がってる汚部屋を覚悟してたので、思わず呟いてしまう。
「意外で悪いな。意外で。これでも絶賛20歳の女子なんだよ」
凛子さんが横から頭にチョップしてきた。しかも普通に痛い。
さっきのことを根に持たれてるらしい。
「チョップするなら葵さんにしてくださいよ」
「お前も笑ってたろ。じゃあ共犯だ」
「笑ってないですよ」
「嘘つけ」
「本当ですって。凛子さんのことオッサンなんて思ってないですよ。まあちょっとおじさん臭いとこあるなーとは思ってますけど…」
「それ同じだろ!」
「同じじゃないですってば!」
私たちが言い合いをしていると、葵さんが凛子さんの肩にポンッと手を置いた。
「凛子、今日は上方漫才大賞の特訓するために春香ちゃん呼んだん?」
葵さんが呆れた声で窘める。
そこで私も凛子さんも我に返った。
「あっそうだ、あの…手に入れたっていう蘭子さんのレコードは?」
そう言いかけた時にはもう、凛子さんはリビングのクローゼットを開けていた。中から取り出したのは黒いアタッシェケースだった。