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BLUE in the ガールズバンド  作者: あまだれ24
18/75

第18話 新開地ブルース その1


10月8日火曜日。今日は朝からずっと雨。


学校が終わるとすぐ家に帰り服を着替え、夕方5時20分に家を出た。


花隈駅から阪急電車に乗る。


凛子さんの住むマンションは私の住む中央区の隣り、兵庫区の新開地という町にある。


阪急電車の西の終点がある町だ。


今年の8月に東灘区のマンションから引っ越したとは聞いてたけど、まだ一度も遊びに行ったことがない。


引っ越しの原因は電子ドラムだった。


凛子さんは騒音対策でわざわざ電子ドラムを買って練習していたのに、管理人さん経由で苦情が来たのだ。


その話を聞いた時は「苦情?」とさすがに私も葵さんも蘭子さんも顔を見合せた。


電子ドラムはヘッドフォンが繋げるドラム版のシンセサイザーみたいなものだ。ヘッドフォンをすれば生音はほとんど出ない。


「嫌がらせ目的のクレームじゃないんですか?」と尋ねてみると、どうやら原因は騒音じゃなくて、電子ドラムを叩く際の振動らしかった。


凛子さんによると電子ドラムのトラブルのあるあるだそうだ。


なんとか管理人さんを通して苦情主とのトラブルを解決しようとしたけど、結局上手くいかなかった。


仕方なく凛子さんは入居前に(あらかじ)め電子ドラムの練習を許可してくれるマンションを探し、いまの新開地に引っ越した。


その凛子さんが前もってLINEで住所を送ってくれてるので、グーグルマップを頼りに向かう。


グーグルマップが示すのは新開地商店街のすぐ近く。

到着すると、少し古びた8階建てマンションだった。


傘を畳んで入口のドアを開く。


大学生が住むふつうのマンションだからオートロックなんてないし、警備員さんもいない。


エントランスに入ると念のため、壁に並ぶ銀色の郵便受けのネームプレートを確認した。


303号室 一条


あった。凛子さんの苗字だ。


よかった。このマンションであってる。


エレベーターがないので階段で3階にあがり、303号室の扉の前で立ち止まった。


そわそわを落ち着けるためゆっくり深呼吸する。


「よし!」


心を決めてインターホンを押した。


「おお春香。早いな」


すぐに扉が開いて中からひょっこり凛子さんが顔を出す。


私はその凛子さんがいつものバンドTシャツじゃなく、着古してヨレヨレになった無地のTシャツを着ていることにちょっと驚いた。


寝癖がそのままなのか、いつもは綺麗なストレートの茶髪もちょっとぐちゃぐちゃだ。


「あっ…どーもー」


どう反応したらいいか分からなくて、とりあえず片手を上げてあいさつする。


すると凛子さんは私に背中を向けて、


「入って。傘はドアノブにでも掛けといてくれ」

「あっ…おじゃましまーす」


私は部屋に入った。


そして玄関で靴を脱ごうとした時。


明らかに凛子さんのものじゃない男物のスニーカーの存在に気づく。


「こ、これは…これはまさか?!」


見てはいけないものを見てしまったと直感し、呻き声をあげて硬直していると、


「いやいや、それウチのやから」


部屋の中から失笑する声がした。


顔をあげると、メンズ系の服を着たショートボブの女性が立ってて、凛子さんの体越しにこっちを見ている。


「こんな中身オッサンみたな子に彼氏なんかできるはずないやん」


その女性が凛子さんを指さしておかしそうに笑った。


「悪かったなオッサンで。これでもお前よりずっーと若いんだけどな」


「なんやそれ嫌味? ウチまだ23やで?」


ショートボブの女性は肩を(すく)め大袈裟に「傷付いた」という顔をする。


凛子さんは目を合わせずムスッとした顔で腕を組んだ。


「なんだ葵さんも今日呼ばれてたんですか。ていうかいつのまにボブにしたんです?」


そう尋ねると葵さんは質問に答えずに、


「ハロー春香ちゃん」と目を細めて手を振ってきた。


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