第16話 名探偵咲ちゃん その4
「ま。とにかく、その蘭子さんってひとが嘘をついた訳じゃない可能性が出てきたということさ」
咲ちゃんが人差し指を立て、自信ありげな表情でそう言う。
私もポテトを飲み込んでから言った。
「その推理本当に当たってるかも…。本人が阪急と勘違いしてたらそりゃ変な体験したと思うよね」
「大阪神戸間の路線ってけっこうややこしいからね。寝ちゃうくらい疲れて頭ボーッとしとったんなら可能性はあると思う」
咲ちゃんはマックシェイクの残りをズズズーッと豪快に吸い上げる。
私は心の底から咲ちゃんを見直していた。
すごい。すごいぞ咲ちゃん!
さすが学年トップクラスの成績なことはある。
以前くら寿司でコナンの欲しい景品を当てるため無表情で永遠に食べ続けてた時は正直「この子大丈夫かな…」って思ったけど、やっぱり私なんかより全然賢い。
「よっ名探偵!ニッポンイチ!」
「いくらでも言ってくれたまえ」
咲ちゃんは腰に手を当て「むふふ」と笑う。
それからスマホをササッと操作し、阪神電車の停車駅の一覧表を見せてきた。
「ご覧の通り、阪神電車は6種類の運行があるんやけど」
「いや多っ!」
「確かにめっちゃ多いんやけど、ここ、〈直通特急〉と〈阪神特急〉の停車駅だけ見てほしいねん」
「特急はどっちも停る駅…ほとんど一緒?」
「そう。でね、2種類ある〈特急〉はどっちも三宮と梅田の間を30分くらいで走る。これは阪急を使うのと同じくらいの所要時間」
「なるほど。で…それがどうしたの?」
すると咲ちゃんは「フッ」と笑った。
あれだ。SPY × FAMILYのアーニャ…じゃなくて毛利小五郎の横でコナン君がよくする顔そっくり。
「だからですなぁ警部どの。阪神電車の〈特急〉ならどちらでも、蘭子さんが梅田を出てから三宮に着くまでにかかった時間とも矛盾しないのです」
「なるほど」
咲ちゃんは変に低い声で続ける。
たぶん、蝶ネクタイ型変声機を使って毛利小五郎の声で話すコナンのモノマネ。
ちっとも似てないけど。
「つまりですな、蘭子さんが降りたというのは阪神電車の〈特急〉が停る『神戸三宮駅の次の駅』。これが事件の真相です」
「おお!」
私は開いた口が塞がらなかった。
本当に探偵みたいな推理だ。
これで蘭子さんが失踪した原因が分かるかもしれない。
ひょっとしたら、いま蘭子さんがどこにいるのかも。
私は我に返るとあわててスマホを操作した。
『阪神電車』の2種類ある〈特急〉が神戸三宮駅の次にそれぞれ停る駅は…
「元町駅!」
私は思わず声を上げた。
どちらも必ずその駅に停る。
「春ちゃん。今から確かめに行ってみよ」
残りのポテトを全部口に押し込んだ咲ちゃんが素早く立ち上がる。
「この謎、私らで解決するで」
「うん!」
今日ほど咲ちゃんが頼もしく見えた日はない。
私たちは急いでマクドを飛び出した。