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お茶会

辺境伯領にきて一週間が経った。

今日はエリザベスが来た時に言われていた「親しい方や親戚筋を招待したエリザベスのお披露目も兼ねたお茶会」である。


エリザベスは招待客のリストをもらっていたので挨拶を受けながら名前と顔を一致させて行く。

さすがは北の辺境伯。親しい人や親戚筋だけの簡単なお茶会でも結構な人で、お茶会は城の中庭で行われていた。

山の方は雪が降り出したが、まだ平地では昼間は涼しく気持ちが良い。

だが、そんなのんびりとパーティを楽しむ間もなくエリザベスは次から次へと挨拶に来てくれる招待客の相手をしていた。


エリザベスも少し疲れてくると、ドレスの裾の刺繍を見て息抜きをしていた。秋らしい重めの青のドレスの裾に抑えめの赤色で刺繍を施している。

エリザベスが自分でデザインをオーダーしたこの刺繍はとても気に入っており、今日は刺繍の赤とルシアーノの髪の色と合わせたつもりだった。見ると元気が湧いてきてさあ頑張ろうと思えた。


しかしエリザベスがルシアーノの赤に合わせた刺繍だと気付いたご令嬢やご婦人にはあからさまに顔を歪められていた。

声に出さずとも、いきなりやってきて婚約者気取りで図々しいと聞こえるようだった。

(まあ歓迎されていないのはわかっていたことだけど‥‥)

皆一様に取り繕ってエリザベスに挨拶をしてくれるのだが笑顔とは裏腹に好意的な人は一人もいない。形式だけ挨拶を済ませると義務は済んだとばかりに男性はルシアーノの話しかけ、女性はアメリアに挨拶に行く。

そのせいなのかいつもなのか2人はたくさんの人に囲まれながら談笑をしていた。


そしてようやくエリザベスに挨拶来た人たちも途切れ出した。

なのでエリザベスは自分の席に座ろうか、その前に飲み物でも頼もうか、などと思案していた時だった。


ばしゃ!!!


エリザベスのすぐそばで水音がした。

(え?)

ふと下を見ると空のコップを持った5歳くらいの男の子が立っていた。

驚いているエリザベスに

「悪役令嬢め!!早く帰れ‥!!」

と震えながら言った。


どうやらわざとジュースをエリザベスのドレスにかけたらしい。

しかしその後どうしていいのかわからずおろおろキョドキョドしながらエリザベスの挙動を気にしているようだった。

(とりあえずこの場をこの子と離れてジュースで汚れているところは立ち入らないようにしないと招待客のお召し物が汚れてしまうかも知れないわ。メイドを呼ばなくては)

「あなたの服は汚れていないかしら?とりあえず場所を移動しましょう。」

とエリザベスが男の子に手を伸ばした時だった。


「子供だろ!!そんなに目くじらたてて!かわいそうだろ!!」

と男性が飛んできて庇うように男の子を抱きしめた。

(ええ?)

「失敗することだってあるだろう!!震えてるじゃないか!」

なんだなんだと一気に注目を浴びる。

子供を怒鳴りつけたんですって。

まあ!

なんて声が飛び交っている。


あらら、どうしたものかとエリザベスが思っていると

「ドレス汚れてしまいましたわね。今すぐ城に戻って着替えて、後は私にお任せください。」

その声に振り向くと騒ぎに気づいたアメリアがいつの間にやら素早くエリザベスのそばに来ていた。

すぐにアメリアがメイドを呼びエリザベスは城に戻る。


汚れたドレスのまま歩き回れないので庭から入ったすぐの部屋で着替えることになった。

侍女が着替えを持ってきてくれるのを椅子に座って待っていると少し開いた窓から途切れながら外の声が聞こえてきた。

エリザベスはそういえばあの男の子は怒られてはいないか、と心配になり耳を澄ました。


よくやったな‥‥‥悪役令嬢‥退治‥‥‥逃げ帰った‥


エリザベスは絶句した。

そっとカーテン越しにエリザベスが外を伺うと、さっきの男の子が抱っこされ英雄のように腕を上げて勝利のポーズをしており周りの人に拍手喝采を受けていた。


(王都と辺境ではまたルールが違うのかしら)

ぼんやりとエリザベスは考える。

少なくとも王都では社交の場でドレスを汚すのは大罪である。

それが故意でなくとも謝罪と賠償はもちろん、その家は二度と夜会やお茶会に誘われることはない。

なぜならドレスが汚されるとその場から退場するしかない。

その場で得られるはずだった縁や利益は全てなくなるのだ。

だから少なくとも上位貴族は子供といえど、粗相をすることはない。

もちろん子ども同士の交流を目的としたお茶会などではそこまで厳しくはないのだが。


考えてみれば今日のエリザベスに対するあからさまな態度。

あれも王都の貴族ならありえない。

王都の貴族なら嫌いな相手だろうと完璧にかくし、笑顔で社交をする。

(辺境はのんびりとしたルールなのかもしれないわね。もちろん謝罪も賠償も求める気はなかったけれど。)

エリザベスが一人で納得しているとドアがノックされメイドが着替えを持ってやってきたので着替えることにした。


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