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護衛騎士 ーマルクー

険しい顔のまま先頭を行く父、エンダー団長に続いて俺は馬を走らせていた。

後ろに続く馬車も荷馬車も空っぽ。馬の足取りは軽い。

相反して騎士達の顔は皆険しかった。


皆別れ際のエリザベスお嬢様の不安そうな顔が忘れられないのだろう。

付き合いの長い俺ですらお嬢様のあんな顔は子供の時以来だ。


団長の馬にそっと近づき

「お嬢様はきっと大丈夫ですよ」

「何が大丈夫と言うんだ」

間髪入れずに言い返される。

これは随分機嫌が悪い。

ギリと団長は歯噛みをすると

「あのクソ王子。見込み違いだったか」と呟いた。

「不敬ですよ。」

呆れたように俺は言う。

まあ、言いたくなる気持ちはわかるけどね。

でも今はやめておこう。

俺は肩をすくめて後ろに下がった。


でも根拠なしに大丈夫だなんて言ってるんじゃあないんだ。

この縁談自体は悪い話ではない、と思っているんだよ、俺は。


辺境伯は知らないと思うが、お嬢様が辺境伯にお目にかかるのは今回で2回目だ。

4年前に一度王城でお見かけしている。

その日妃教育で登城していたお嬢様は、庭に面した外廊下を俺たちと歩いてたんだ。


庭では城の兵士と辺境伯との手合わせで大盛り上がりをしていた。

見ると辺境伯が次々と兵士を捌いておりなかなか見応えのあるものだった。

「彼女達危なくないのかしら」

お嬢様がふと漏らした。


城の侍女がキャアキャア言いながら随分近くで見学している。

「あれは危ないですね。注意させましょう。」弾かれた剣が飛んできてもおかしくない距離だ。

護衛の1人に注意しに行かせ、先を進もうとした時

「あの赤髪の方は?」とお嬢様に聞かれたのだ。

「ジュンブリザート辺境伯ルシアーノ閣下です。急逝されたお父上の爵位相続の承認に来られたんでしょう。」

「そう。あの方が新しい北の辺境伯なのね。」


なんてことない、それだけの話なのだが俺は珍しいなと思ったんだよ。

お嬢様が特定の誰かの名前を聞きたがるなんて。

俺自身長らく忘れていたのだが、今日お嬢様が辺境伯の髪色のような赤のルビーの髪飾りをつけているのを見て、ふと思い出したんだ。


そもそもアウリス王子が嘘でもお嬢様が不幸になることをするわけが無いんだよ。

2人は恋人ではないけれど本当に仲のいい兄弟のような2人だったのだから。


だったらなんであんなことをしたのかって。

そりゃあ恋は盲目ってやつと、少しのコンプレックスかな。


王子としての立場は計り知れないが

同じ男として、長男としてなら少し気持ちはわかるんだよ。


アウリス王子はいわゆる絵本から飛び出してきたような王子様。

中性的な顔立ち、柔和な性格、真面目で努力を怠らない姿勢は一定数の支持を得ていたんだ。


彼にとっての不幸は、父親が賢王と名高いこと、歳の近い第二王子がカリスマ性の高いこと、その上婚約者まですべて兼ね備えたチートなこと、だろうか。

これだけの超人に三方固められたらちょっと辛い。


ただ王は愛情深い人だったし、第二王子もお嬢様も真面目な彼を心から尊敬していた。

お嬢様に至っては自分が「全てを兼ね備えたチートなご令嬢」な事にこれっぽっちも気づいていない。自分はごくごく普通のご令嬢だと思っていることが、相手は毒気を抜かれるんだよな。


だから王子も変に拗らせることなく平穏だったんだよ、一年前までは。


優等生な自分にコンプレックスがあったんだろうなあ。

初恋をきっかけに爆発してしまった。


まあともかく、降ってわいたようなこの話。

悪い話じゃないって本気で思っているんだよ。


辺境伯にお相手さえいなければね。

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