教会その後 ーアレクー
馬車から降りてきた時ルカは随分機嫌良さそうだと思ったんだが違ったのか。
てっきり謝罪がうまく行ったのだとばかり思っていた。
その馬車に今は俺とエリザベス嬢とで乗っている。
エリザベス嬢の足首には包帯。ひねった足はシスターに手当てをしてもらった。
(まるで絵画を目にしているようだな。)
エリザベス嬢を前にそんな事を思う。
しかしこの美しさを表現できる画家はいないだろう。
ルカにも圧倒的王者のオーラを感じるが、また別方向でエリザベス嬢にも圧倒的なオーラを感じる。まあ少し前まで未来の国母だったのだ。ここで俺と膝を突き合わせて馬車に乗っている事がの方が非現実的と言える。
俺は改めて深く謝罪した。
あの一連のセリフは昨日娼館に飲みに行って娼婦絡みのトラブルに巻き込まれた、その時娼婦を庇ったルカに向かって酔っ払いが言った言葉だ。
そいつはよその領地の貴族だったがお茶会のトラブルを知っていてエリザベス嬢のことも罵倒したのだ。
その時言われた言葉とアメリア様に何度も釘を刺された言葉。めちゃくちゃに繋いだくせにちゃんと意味が通った言葉になってしまっていた。
優秀なのか馬鹿なのか。
今日の場面は客観的に見ても教皇がエリザベス嬢をお支えしてるようにしか見えなかった。
ルカはリズ嬢に抱く感情は苦手意識だと思っている。
初めての感情にパニックになったんだろうな。
それ嫉妬だよ。
ルカはあんな事は思っていない、そうエリザベス嬢に言いたいがどう伝えればいいのか。
ルカは初恋に気付かず戸惑っているのです?24歳だぞ‥
「誤解を招く行動だったことは分かっています。私が悪いのです。下手な説明をしてしまってルシアーノ様を怒らせてしまいました。なのでルシアーノ様もつい言いすぎてしまったのでしょう。私は本気にはしておりません。ですので‥」
そこまで言うとそのあとが続かない様子だった。エリザベス嬢の唇からは息だけが漏れた。
エリザベス嬢は少し困ったように微笑むと黙り込んでしまった。
思わず目を背けてしまう。
17歳の御令嬢が筆頭公爵家として王族命令を全うしようとしている。
そしてこんな事は些事だと。
胸が痛くなった。
許してくれている寛容さにいたたまれなくなった。
ルカ、本当お前何やってるんだよ。
でも俺も甘かった。
この日のことを詳しくアメリア様に報告しなかった。
すれば厳しいアメリア様のことだ。
あんな娼婦に浴びせるような暴言を公爵令嬢にはいたルカを許さないだろう。
もちろんこちらの瑕疵として公爵家と何らかの話をつけるに違いない。
そうなればエリザベス嬢を王都に帰す算段がつく可能性も高い。
初めての恋に戸惑っている幼馴染を応援したかった。
エリザベス嬢の寛容さにあぐらをかくような行為だとわかっていた。
でもいい歳して初恋を経験するとここまで拗らせるとは思わなかったんだ。




