孤児院にて ールシアーノー
俺はきつねにつままれたような気持ちだった。
馬車でリズ嬢と向かい合って座っている。
もう会いたくないと思ったばかりなのに。
母上からはリズ嬢からは今回の事は気にしていない。婚約はこのまま継続。
この意思を確認した、と言われた。
そして教会と孤児院の寄付と訪問を希望されたから当日は護衛としてついていけ。そして一言謝罪してけじめをつけろと。
しかし気にしていないと言われてもどういう顔で会えばいいのか。
婚約を継続してもいいと思ってるとは言え仕方なくなのは明白だ。
昨日は飲んでないとやってられない気持ちになり娼館に行った。
行ったら行ったで娼婦絡みのトラブルに巻き込まれてしまい飲めなかった。
リズ嬢と突き合わせているひざがチリチリと落ち着かない。
今すぐ馬車から降りてしまいたい衝動に駆られる。
一言謝罪しなければ。わかっているのに言葉が出ない。
どこを見ていいのか分からず窓の外を眺めていた。
俺はリズ嬢が苦手。
こうして言葉にすると少し落ち着く。
今までの自分のリズ嬢に対する態度も腑に落ちた。
しかしそれは俺の問題だ。
きちんと謝罪しなければ。
「ルシアーノ様のお怒りはごもっともです。今後はブリザート辺境伯夫人に相応しいと言っていただけるような振る舞いを心がけてまいりますので今回のことはお許しいただけないでしょうか。」
考えている内に、いつの間にかリズ嬢が喋っていた。
・・今辺境伯夫人って言ったか?
なぜか妙に焦ってしまった。
自分が何かを言った気がするがわからない、誤魔化すように外を眺めた。
するとリズ嬢も柔らかい表情で窓の外に顔を向けた。
手がチリッとする。思わず指を擦り合わせた。
(同じ景色を見てる)どうしてかこんな当たり前のことを思った。
「なんだ、問題ないじゃないか。」
ムッとしながら呟く。
そして自分がムッとしたことに気づいてため息をついた。
リズ嬢が関わると自分がひどく小さい男のように感じてしまう。
こういうところも苦手なんだ。
教会に着くとリズ嬢は大きな荷物を持たせた護衛とさっさと孤児院に行ってしまった。
しかしアレクに「悪役令嬢だ何だと言われて1人困ってたらどうするんだ。行ってやれ。」と言われ後から追って来たのだ。
そして今リズ嬢は小さい組のちびっ子達にワイワイと引っ張られながらどこか行ってしまった。
問題ないならいいじゃないか
自分を納得させるように呟いた。
「いたいた!閣下!!」
「待ってたんだよ!剣の手合わせしてくれよ!」
大きい組の子供が俺を見つけてわらわら寄ってきた。
俺はパン!と手を打つ。
「ヨシ!相手してやるからまとめてかかって来い!」
切り替えるように大声で言うと皆ワッと歓声を上げた。




