どう ーアレクー
そろそろ日が傾きかけている。もうじきルカが帰って来るか。
ルカの執務室には俺の机もある。
そこで書類仕事をしながらふと思った。
今日は王都から来た公爵令嬢をルカが城内の案内をしている所だ。
本当なら執事のセバスチャンがする予定だったが、アメリア様がルカに命じたらしい。
アメリア様も王族命令が下った時は随分怒っていらっしゃったが元々王都育ちの侯爵令嬢。階級には逆らえないのか実際は当主であるルカにさせることにしたようだった。
ルカは何とか仕事を早く終わらせていた。
驚くべき異次元の美しさを持つ公爵令嬢に俺も最初は驚いたが、異次元すぎて逆に冷静になった。
あの方が婚約者だと言われて嫌な気分になる男性はいないだろうな。
ただ、こんな辺境の地にまで届くほどの噂のあるご令嬢であることは間違い無いのだから、くれぐれもあっさり信用だけはしてくれるなと釘を刺した。
ルカは社交的な分、無防備なところがあるんだ。
とそんなことを考えていると、ドアが開いた。
「ああ、ルカ。おかえり。どう・・」と途中で言葉を切ってしまった。
ルカはムスーっとした顔でズカズカと部屋に入ってくるとドカッと自分の机の前に座るなり手を組んでおでこを乗せた。
うつむいてる形になる。
「おい?どうしたんだ?なにがあった?」
まさか悪役令嬢に劇のような態度を取られたのか?
まあ、断罪劇なんて見た事ないからどんな態度かわからないけど。
質問にも答えず黙り込んでしまったので、今は話す気がないのかと仕事を始めようと思った時だった。
「いつもの令嬢たちと反応が全然違うんだ・・」
ポツリとルカが言った。
思わず聞き返しそうになるくらいの声だった。
めずらしい事もあるもんだ。ルカは基本声が大きいのだが。
「どういう意味だ?」
それだけじゃあ意味がわからない。
俺はアメリア様に報告しなきゃいけないんだ。
「だから、よくあるだろ。学園の図書館で令嬢の届かない本を取ってやったりさ。」
俺とルカは辺境の学園に18歳まで通っていた。
俺はあまりなかったが、ルカはよく気がつく。天然の人たらしってやつだ。
本を取ってもらったご令嬢は例外なく顔を赤らめてうつむいていた。
ってことは「さっさと取れ、とでも言われたのか?」と冗談めかしていったのだが、
ルカは少し顔をあげクスリともせず
「いや、そんな事は言わなかった。ただ俺が軽々取ったのを見て楽しそうに笑っていた。」といった。
何も問題ないじゃないか。
ルカはまたうつむくと
「さっきまでは客室にいたんだ。泊まった客はいつも夕方の景色を絶賛するから、リズ嬢にも見せてやろうと思って。」
随分サービスしたんだな。あんなに交流する気は無いと言っていたのに。
まあいい。
黙って話の続きを聞く。
「景色を指さして色々聞くから俺もリズ嬢の目線に腰を落として景色を見たんだ。ご令嬢に顔を近付けて話す事もよくあるじゃないか。」
俺はなかったが、ルカは気にしなかった。ただそんなことをされたご令嬢は例外なく顔を赤らめて・・いや、待て。
ルカはかなりの美丈夫で、王も一目置く北の辺境を治める辺境伯である。
当たり前のようにモテているが、それが普通と思っている節がある。
「普通令嬢はそういう時、顔を赤くして目を逸らして俯くものだと思っていたんだ。」
やっぱり。
「リズ嬢は全くそんな事なかった。それどころか思わず目を逸らせたのは俺の方だ。どうなってるんだ。これじゃいつもと逆じゃないか・・!」
面白い事を言い出した。
へえ。
小さい頃から老若男女態度変わらないし、高級娼婦の手練手管もしれっといなすし、お前はそのへんの感覚おかしいんだと思っていたよ。
「何だ‥お前がニヤニヤするなんて珍しいじゃないか。」
いつのまにか顔を上げていたルカが不思議そうにこちらを見ていた。




