台無し
「入れ！」
ハッとしたようにルシアーノが声を上げた。
緊急を要するであろうノックの音に先ほどとは違う緊張感が漂う。
入って来たのは執事のセバスチャンだった。
落ち着いて見えるが部屋に入るや、エリザベス、セイラ、ルシアーノの間を激しく目を泳がせている。
「何があった。そこですぐ言え。」
ルシアーノが指示する。
「お食事中失礼致します。アレク様が帰ってまいりました。凄まじい勢いでこちらの食堂に向かっております。」
セバスチャンが報告すると
「ええ？！」とセイラが
焦ったような、驚いたような、素っ頓狂な声をあげ、思わずと言ったように椅子から立ち上がった。
しかしルシアーノは訝しそうにセバスチャンを見る。
「明日の帰城予定が早まったのか。それで何があった。早く報告しろ。」
「ですから‥‥」と言い淀みながらも無意識だろうか。
セイラの方にツと少し顔を向けたのをエリザベスは見逃さなかった。
（セイラ様？）と考えているとするとまたコンコンとノックの音がする。
返事を待たずに入ってきたのはアレクだった。
「お食事中失礼します。」
と言いながら上座に座るセイラを見るや、ルシアーノに目を向けると凄みのある殺気がアレクから溢れる。
食堂の温度が一気に下がった。
「アレク？まさか誕生会に合わせて早く帰ったのか？」
混乱しながらも怯むことなくルシアーノが語りかける。
その瞬間アレクの顔が歪んだ。
食堂はビリビリとした雰囲気に包まれ女性の使用人は怯えた顔をしている。
アレクがルシアーノに向かって一歩を踏み出そうとした。
（いけない）
エリザベスが思わず立ち上がる。
「アレク様、セイラ様の誕生日会を台無しにするおつもりですか」
と毅然と言った。
ハッとしたようにアレクがエリザベスを見た。
目には動揺が浮かんでいる。
「アレク様の話は外で私が聞きましょう。セイラ様どうかお座りになって。ルシアーノ様とお食事の続きを楽しんでくださいませ。」そこまで言うとエリザベスは席を離れた。
「何を勝手に！！」イライラと立ち上がったルシアーノの声が響く。
「途中退席することをどうかお許しください。」とエリザベスは強引に話を遮り丁寧にお辞儀をすると
「サラ」
と離れたところに立っていた護衛のサラを呼び有無を言わさずエリザベスは部屋から出て行った。
ハッとしたようにアレクもすぐエリザベスの後に続き出ていった。
扉が閉まるや否や「一体‥！今日は！！」
抑えた声のアレクにエリザベスは詰められる。
「今日はセイラ様のお誕生会です。」
エリザベスが微笑んで宥めるとアレクは悲痛な面持ちになる。
(やはりアレク様は私もお誕生日だったと知っているのね)
そう感じたエリザベスは
「実はシェフには申し訳ないのですが今日の食事なんだか重くて。中座したかったのです。さあ扉の前で話し込むなんて。場所を変えましょう」
とフォローを口にした時だった。
サラが
「失礼致します。先ほどからエリザベス様の顔色があまり良くありません。体調が優れないのでは？」
といった。
（体調が悪い‥？）
サラに指摘されエリザベスはふと自分の体に意識を向ける。
確かにほとんど食が進まなかった。
（お腹‥‥？）と思った時だった。
急にギリギリギリっと痛み出す。
「‥！！」
これはいけないとエリザベスはサラに手を伸ばすとサラが慌てて体を支えた。
それを確認するとエリザベスは意識を手放した。
