王都では ー男爵令嬢ジョージイー
学園に入学して初めて彼女を見た時は圧倒された。
まるで後光が差してるかのように光り輝いていたから。
学園に入ると上位貴族のご令嬢を間近に見ることも多い。
皆美しく存在感がある。
でも彼女は群を抜いて目立っていた。
ロセーベル男爵令嬢のジョージイといえば、少なくとも下位の貴族では有名だった。
明るく、優秀で、可愛らしいと褒めてもらえることが多く人に嫌われたこともない。
学園では下位貴族と上位貴族はクラスは分かれているが、上位貴族でもわざわざ私に話しかけてくる貴族はたくさんいた。
下位貴族でありながらも成績が認められ生徒会に入り、憧れのアウリス王子とも親しくしてもらえるようになった。
それでも彼女の前ではただの凡人。
私と同じ学年の上位クラスにはアリウス王子とは真逆と言われる第二王子のロイド様がいる。
カリスマ性があり持ち前の勘の良さで武術に秀で、驚くべき行動力と発想力で人々を圧倒させる。
勉強はあまり好きではないようだったが勘がいいのでやればすぐできる。
でも私は目立たずともコツコツ努力しているアウリス王子が好きだったし、
そこが素敵というご令嬢も多かった。
でもアウリス王子は派手なことがお嫌いだろうと誰も騒がなかった。
だからアウリス王子は自分の人気など知らない。
「王子なのに努力している姿が素敵です。」と思わず言ったことがきっかけとなり仲良くなったが、王子に想いを伝えるなんて、と思っていた。
アウリス王子の婚約者は彼女なのだし。
でも一方で婚約者の彼女よりも、側近の彼よりも、私の方を優先させてくれることに優越感を感じる私もいた。
でも彼女は私なんて一ミリも気にしてない。
そもそも彼女の目に私が映ったことなど一度もない。
彼女の前では私などすっかり霞んでしまうのだ。
いいえ、私どころかロイド王子ですら霞んでしまう圧倒的カリスマ性。
彼女に憧れないご令嬢などいるのだろうか。
彼女が身につけているものはあっという間に似たものがそこかしこで売られるようになり、またそれが飛ぶように売れる。
学園でも彼女のファッションは注目の的で、
彼女が前髪を切って下ろして来た時などは、次の日学園のほとんどのご令嬢が前髪を切っていたのには驚いた。
一度アウリス王子に聞いた事がある。彼女は自分の人気をどう思っているのかって。
すると驚くべき答えが返ってきた。
「リズは自分のことには鈍感でね。まさか皆んなが自分の真似をしてるなんて考えたこともないんじゃないかな。あれで実はこっそりオシャレを楽しんでいるつもりなんだよ。」と笑った。
信じられなかった。
白の刺繍糸で学園の白のブラウスに刺繍を施して着ていた時も、学園のカバンにリボンとレースを自分の色で編み込んだチャックチャームをつけてた時も、制服のブレザーのウエストの形をいじった時も、学園の御令嬢全員が真似したと言っていいくらいブームになったのに。今ではブームではなく定番になりつつあるくらいだ。
圧倒的な差をつけられた気分だった。
そんな時だった。同じ生徒会の役員スモーレイ侯爵令息ラビンに
「正直アウリス王子にはジョージイ嬢が似合ってるよね」
と言われたのは。
そんなことを言われたのは初めてだった。
彼女と比べて自分の方がいいと言われるなんて!
「揶揄わないでよ」と言いながらも嬉しかった。
それからも度々ラビンはそういうことを言ってきた。
時には生徒会のみんなも同意した。
「王子はいつもジョージイ嬢の横に座るよねえ。正直エリザベス様より見慣れてしまったなあ!」
などと言われるとどんどん舞い上がってしまう。
結局ラビンに背中を押されアウリス王子に想いを伝えてしまった。
でもまさか想いを返してもらえるとは。
そこからは夢のようだった。
もうすっかり周りは見えなくなった。
学園では2人きりになれるようにラビンがいつも協力してくれた。
学外では私が好きな悪役令嬢断罪劇のチケットをラビンが手配してくれ、アウリス王子と何度も見に行った。
そのうち劇のように「ジョージイ嬢はアウリス王子の真実のお相手」と言われるようになりすっかり有頂天だった。
「真実の愛で結ばれた二人に国を支えてほしいなあ。エリザベス嬢よりジョージイの方が王子のお相手に相応しいよ。」とラビンに言われても否定もしなかった。
そのうちアウリス王子のお相手となって彼を支える。そんなことも夢見るようになっていた。
それがどういう結果を招くのかなど考えたこともなかった。
社交シーズンも終わりに近づきアウリス王子の卒業パーティも間近に迫った。
学内の生徒会主催の小さいパーティは彼女は出ないし、自分がアウリス王子のパートナーとして出席することはあった。
しかし卒業パーティは規模が違う。
流石に諦めていた。
するとラビンに声をかけられた。
「これでもうアウリス王子とお別れだね。最後の思い出に自分のために断罪劇してもらいたくない?」と。




