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誤解

孤児院を出て教会への渡り廊下を歩いていると向こうから司教が歩いてきた。

エリザベスを見つけると

「エリザベス様。今から孤児院に迎えに行くところでした。」とこちらに駆け寄る。

そしてキョロキョロと辺りを見回すと、

「閣下は?」と聞く。

エリザベスはきょとんとして

「ルシアーノ様はお見かけしてませんが」

というと

司教は「そうでしたか‥」というものの腑に落ちない様子。

「そちらにいらっしゃらないのですか?」

「ええ‥‥皆孤児院の方に行かれたかと‥‥おや?パム?どうしたのですか」

(え?パム?)

とエリザベスが振り返った時だった。

ドン!!とエリザベスの体に衝撃が走る。

(え?!)

グラリと視界が傾く。

傾いた視界に見えたのはパムの走っていく後ろ姿。

(パムがぶつかった?)

踏ん張ろうとするも足をグリッとひねってしまった。

転ぶ!これからくるであろう衝撃にギュッと目を閉じた。


「あぶなかった‥‥」

その言葉にハッとなる。

転んでいない。

司教が咄嗟に抱き止めてくれていたのだ。

顔を上げると司教の心底ほっとした顔が見える。

転ばずに済んだ。

エリザベスも心からホッとした。

下は石畳。バランス崩したままここで転んでたら顔にあざの一つも作っていたかもしれない。

「司教様ありがとうございます。」

とゆっくり自分の力でたとうとした時、ズキっと足首が痛んでまたよろめいた。

またそれを大丈夫ですかと司教が支えながらも青ざめる。

「パムは一体どういうつもりで‥!あとできつく注意しておきます。申し訳ございません。」

その言葉にエリザベスは司教の顔を見た。

「いえ、きっと何か理由があったに違いありません。理由を聞いていただけませんか‥聞けばきっと‥‥」

とその時だった。


「教会で抱き合うなんて随分大胆なんだな」

よく通るくぐもった声がした。

はっと2人で声の方を見る。

そこには片目をすがめて不快そうに顔を歪めて嗤うルシアーノが立っていた。

「それともこのくらい慣れてるとでも?噂通りの令嬢で恐れ入る!」

話しながらゆっくり近づいてくる。


一瞬何を言われているのかわからなかったエリザベスだが状況を理解する。

今エリザベスは司教に抱き支えられて立っている。

その状態でパムの話をしていたのだ。

この時だけ切り取れば近く顔を突き合わせて親しく話しているように見えただろう。

足が痛まぬようゆっくり体を離しながら「いいえ、誤解です!」と訴える。

「誤解?この状況で何を言ってるんだ?」

言いながらハッとバカにしたように笑う。

「閣下!本当に誤解です。エリザベス様がよろめいたのでお支えしただけなのです。」

司教もエリザベスの援護をしてくれる。がルシアーノは不快な顔を崩そうとせず歩を進めエリザベスの目の前まで来て止まると覗き込むように腰をかがめた。

「よろめくような段差はないように思うが?もしやよろめいた振りで誘惑が常套手段か?なあ。婚約者と来ている教会でいくらなんでもやりすぎだとは思わないか?」

「ちが‥‥違います!誤解です!子供が‥

「子供?」

「はい、子供とぶつかってしまい‥

「子供なんてどこにいるというのだ!!」

エリザベスの言葉を遮りスイッチが入ったようにルシアーノが声を荒げた。

エリザベスは先日怒鳴られたことを思い出し、ひゅっと息を呑む。

慌てたのは司教だった。

まさかルシアーノがここまで激昂すると思っていなかったようだ。

「閣下!ご令嬢にそのような!頭ごなしにお気の毒です!」

「お気の毒?」

今度は不愉快そうに司教を見る。

「気の毒は俺の方じゃないか?国中で知らぬもののいない股の緩いご令嬢を娶らないといけないんだぞ?不本意だろうが関係ない!王族命令ときたもんだ!おまけに爵位だけは無駄に高くて蔑ろにもできない!そこまで言うなら司教が代わってくれよ!そしたら病気をうつされている様を遠くから見て笑ってやるよ!!」最後の方は怒鳴り声となっていた。

(病気?どうして病気の話に‥)エリザベスがそこまで考えた時ハッと気付き、羞恥で赤くなるよりさっと青ざめた。

「閣下!!」同じく意味に気づき真っ青な司教が素っ頓狂な声を上げた。


と同時に

「ルカァァ!!!!」

ルシアーノの大きい声にも負けないくらいの大声が響いたかと思うと

ガキイ!!聞いたことのないような音が鳴った。

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