謝罪
「ふう」
はしたなくもバフンと自室のベットに転がりながら息をついた。
昨日の一件でエリザベスなりに落ち込み、気晴らしにいい景色を見たかっただけなのに情報過多なくらいの情報を仕入れてしまった。
(朝ごはんしっかり食べてもいいじゃないの。落ち込んだ時にこそしっかり食べるべきだわ)
そして何よりエリザベスが気になるのはセイラ様なる女性である。
やはりルシアーノには恋人がいたのだ。
それならルシアーノのたまに見せる苛立ちや昨日の激怒も全て納得がいく。
次々とパズルのピースがパチパチと音を立ててはまっていく。するとストンと何もかもが腑に落ちた。
(そうねえ、とりあえずアメリア様にお会いしたい旨を侍女に伝えてもらおうかしら)
コンコン
「エリザベス様。アメリア様がお茶にお誘いですがいかがいたしましょうか。」
あら願ったり叶ったりね。
「先日のお茶会での粗相、大変申し訳なく思っております。今後このようなことはないよう、しっかりと抗議いたしました。ドレスも弁償いたします。」
深々と頭を下げられた。
アメリアの執務室にいた護衛や侍女の空気がピリッとした。
ルシアーノのように叱りつけるのを期待してたのだろうか。
正直エリザベスも昨日の中断された話の続きになるのかと思いこんでいた。
現実は真逆であった。
(そういえばアメリア様のご実家は序列の高い侯爵家だったわね。)
辺境伯領に来てからずっと格上の公爵令嬢としてエリザベスを扱ってくれていることをふと思い当たる。
「アメリア様、顔をおあげください!私は気にしておりません。ドレスは結婚後も着られるデザインではありません。弁償も必要ありません。」
慌てながらもきっぱり言うと、アメリアはハッとしたように顔を上げるとエリザベスの顔を見つめた。
「私の周りへの注意力や配慮が足りなかったのです。せっかくのお茶会でお騒がせして申し訳ありません。」
アメリアがエリザベスの顔をまじまじと見ていたので、やはり謝罪するべきだったのかと言葉を足した。
そこでハッと我に帰ったかのように
「エリザベス様のお心遣い感謝致します。」
と席に着くと言いにくそうに
「ルシアーノのことですが。改めて本人より謝罪をさせます。ルシアーノはその、社交会をあまりわかっておらず‥」
「いえ、気にしておりません。」
(望んだ相手ではない私が婚約者として立っているだけでも苛立たしいでしょうに、騒ぎまで起こしたのだもの。怒るのは当然だわ。)
と、じっとアメリアはエリザベスを見つめている。
(?思った反応と違うのかしら。)
でもすぐまあいいか、とエリザベスは切り替える。
そもそもエリザベスの方も用事があったのだ。
「それよりもアメリア様。お願いがございます」
と切り出すとアメリアは少し意外そうな顔をした。
「なんでしょうか」
「少しずつ北の辺境領の事も知って行きたいと思っております。つきましては教会と孤児院に寄付と訪問を考えておりますが、近くにありますでしょうか。」
「まあ、エリザベス様が訪問されるとなれば皆喜びますわ。街の中心部に教会と孤児院が同じ敷地にございます。訪問はいつになされますか」
「向こうのご都合の良い日で」
「では話を通しておきますので、また詳しくは侍女に言付けますわ」
エリザベスはすんなり事が進んだことに嬉しくなり
「ありがとうございます」と微笑んだ。
そしてその顔を貴婦人の顔でアメリアが見つめていた。




