表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮廷魔術師の専属メイド 〜不吉と虐げられた令嬢ですが、なぜか寵愛されています〜  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/45

44 夢うつつ

 バルトロメウスが改まってお願いをしてきたので、アリシアは姿勢を正して即答した。


「はい! 何でしょうか! 何でも言い付けてください!」

「抱っこしてもいい?」


 アリシアは脳内でバルトロメウスの台詞を反芻(はんすう)した。

「抱っこ」と確かに言ったので、アリシアはますます頭がのぼせた。

 同時に、自分がベルを抱っこした時の癒しを思い出した。バルトロメウスもきっと疲れているのだ。


「ああ~、なるほど! 勿論、いいですよ」


 アリシアの承諾を得て、バルトロメウスはアリシアの腰と膝の裏に腕を差し込むと、あっさりと宙に持ち上げて、自分の膝の上に抱えた。赤ちゃん抱っこの再来である。

 だが、泣き喚いて(すが)ったあの日と違って、冷静なアリシアはこの状況に心拍数が爆上がりしていた。ガウンがはだけてまたネグリジェがチラ見えしたので、慌てて前面を引っ張って隠した。

 バルトロメウスは微笑んでこちらを見下ろしているが、月明かりの下でその顔はやたらに色気があって、アリシアは雰囲気を誤魔化すように喋った。


「えっと、抱っこって落ち着きますよね。私もベル君を抱っこすると温かいし柔らかいしで、ホッとするっていうか」


 饒舌(じょうぜつ)なアリシアの背中を支えている手をバルトロメウスは自分に引き寄せて、目を瞑ってアリシアのおでこに頬を当てた。


「ずっと捜査でバディをしてたから、仕事の話ばかりで寂しかったんだ」

「あ、そ、た、確かに~……」

「可愛い。可愛い」


 バルトロメウスの口癖だが、しっとりとした言い方にアリシアはますます赤面した。


「バ、バルトロメウス様は可愛いものが好きですからね。私は幼児やモフモフ動物と同じですね」


 バルトロメウスはじっとアリシアを見つめると、()ねたように呟いた。


「幼児やモフモフ動物に性的な(たかぶ)りは感じない。俺はそこまで変態じゃないぞ」

「……」


 アリシアがその意味を噛み砕く間に、バルトロメウスはアリシアの額に、髪に、指にキスをした。

 それは明らかに幼児やモフモフ動物にするキスではなかったので、アリシアは思わず生唾を飲んだ。バルトロメウスが触れた場所が熱くて、溶けてしまいそうで。高貴な香りに包まれて甘い目眩を起こすアリシアは、宮廷魔術師の噂を思い出した。


宙色(そらいろ)の瞳と目を合わせたら魔力酔いするって……違う。これはフェロモンに酔ってるんだ)


 バルトロメウスは頬に、耳にキスをして、アリシアはまた体がビクッとなってしまった。恥ずかしい反応だがどうしようもなく、目を瞑って(こら)えた。バルトロメウスが鼻と鼻をスリ……と合わせたので、アリシアはとうとう我慢ができずに、止めていた息を吐き出した。


「ま、待って! ちょっと待って! お、大人すぎますから!!」


 訳のわからない中断の理由に、バルトロメウスは「ふふっ」と笑った。


「だって、セクシーなネグリジェを着てるから。俺を挑発してるのかなって」


 アリシアは見られていないと思っていたネグリジェに不意打ちで突っ込まれて、面食らった。


「み、見ないでください! エッチ!!」

「許可無くエッチな事なんてしないよ。俺は上司だからセクハラになっちゃうし」


(いや、充分エッチなキスでしたが??)


 と心中でツッコミつつも、アリシアはまたしても唇へのキスを阻止してしまった自分に頭を抱えた。

 キスはお預けのまま、バルトロメウスはアリシアの抱っこした体を優しく揺らした。まるで赤ちゃんを寝かしつけるように。


「いい子だ。ぐっすりお休み。可愛い子よ」

「……子供扱いして……」


 アリシアはムクれつつも、温かく逞しい抱擁に安心して微睡んだ。


 宮廷で初めて出会ったバルトロメウスを、ぼんやりと思い出していた。怖くて冷たくて、変人な宮廷魔術師を。

 あの頃の自分に、この人に抱っこされて寝かし付けられる未来を教えたら、びっくりしすぎて気絶するかもしれないと考えながら、微笑んで目を閉じた。


 バルトロメウスは寝かし付けながらアリシアに語りかけた。


「アリシア。魔法宮の働きを労って、国王が休暇をくれた。俺とアリシアとエレンとベルで、旅行に行こう」

「りょこう……いいですね……」


 アリシアが寝ぼけてにやける顔を、バルトロメウスは愛おしそうに眺めた。


「モルガナイト王国に行こう。君のルーツがあった場所へ」


 どこからが夢で、どこからが現実なのか。

 夢うつつのまま、アリシアは心地よく眠りに落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ