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宮廷魔術師の専属メイド 〜不吉と虐げられた令嬢ですが、なぜか寵愛されています〜  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中


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16 宮廷魔術師の正体

(ええええーー!?)


 別人のようなバルトロメウスを前に、アリシアは物置の中で石のように固まった。脳内で一頻(ひとしき)り叫ぶも、声は一言も出せない。


 するとリビングに繋がる部屋のドアが開いて、エレンが本を抱えたままやって来た。


「先生。一人で何騒いでるんですか?」

「エレ~ン。いるじゃん。お迎えも無しとか酷いなあ」


 エレンはいつも冷静だが、こんなバルトロメウスを見ても動じないという事は、通常運転という事だろうか? と、アリシアは混乱した。

 これまで見た人格とまったく違うバルトロメウスがそこにいる理由を、アリシアは自分なりに必死で考えた。


(え? 二重人格? いや、双子なのかもしれない!)


 するとアリシアの部屋から、ベルが飛び出して来た。


「せんせ~! おかえりなさい!」

「おお、ベル~! 可愛い、可愛い!」


 ベルが飛び込んで来たので、バルトロメウス風の人はベルを抱き上げて、頭を撫でまくった。

 エレンは呆れて散らばった服を拾い集めている。


「先生。アリシアさんがいるのに、リビングで裸にならないでください」

「裸じゃないよ。大事な部分は隠してるだろ?」

「セクハラですよ?」


 バルトロメウス風の人はベルを抱えたまま、ソファに再び寝転んだ。


「だって正装の服がやたら重いんだよ。魔術師なんて斬り合いするんじゃないんだからさ、ローブの下なんて裸でいいだろ」

「そんなの変質者じゃないですか……」


 アリシアは無になって固まりつつも、脚に限界を感じていた。無理やりに屈んでいるので、プルプルと震え出している。だがここで、いきなり登場するわけにはいかない。


 寝転んでいたベルは、忘れていた事を思い出したようだ。


「あ。ぼくね、アリシアとかくれんぼしてるの」

「はあ? かくれんぼ?」


 アリシアの心臓がドキィッと跳ねて、その衝撃で、限界を超えた脚は前方に崩れた。


 ドタッ! ガラガラ、ガッシャーン!


 ド派手な音を立てて、アリシアは物置の中から日用品と一緒に雪崩出ていた。

 へばり付いた床からそっと起き上がると、ソファの上でバルトロメウスとベルが、その横でエレンが唖然とした顔でこちらに注目していた。


 しばしの沈黙の後に、エレンが溜息を吐いた。


「あーあ、先生の正体がバレちゃいましたね」



 ♢ ♢ ♢



 アリシアが淹れた紅茶がテーブルに並んで、バルトロメウスとエレンとベルと、アリシアも一緒に席に着いた。

 バルトロメウスは開き直ったのか、飄々(ひょうひょう)とした顔のまま、紅茶の香りを楽しんでいる。流石に半裸の体はローブを着て隠してくれた。


「うーん、やっぱりアリシアの淹れる紅茶は美味いな」


 エレンはバルトロメウスを見上げた。


「先生は味がわからないのに?」

「エレンだってそうだったじゃん。生意気~」

「ぼく、あじわかるよ!」


 三人の会話を眺めながら、アリシアは呆然としていた。

 あの堅物で冷たくて近寄り難いバルトロメウスは、実のところこんなに軽くて適当で表情豊かな人だったとは、どうしても同一人物として一致しなかった。


「あの……」


 アリシアがようやく口を開いたので、三人はじっと黙った。


「その……演技だったのですか? あの感じ……」


 エレンとベルがバルトロメウスを見上げたので、バルトロメウスは気まずそうに「んん」と咳払いした。


「うん。まあ、ね。立場上、(すき)を見せないためって言うか……いや、アリシアにもいつか、素顔を見せようと思ってたよ?」


 エレンが隣で援護するようにフォローした。


「先生は警戒心が強いので、僕とベル以外には、ずっと宮廷魔術師としての仮面を被っているんです。宮廷には複雑な派閥の問題があって、揚げ足一つで窮地(きゅうち)に追われるお立場なので。どうかお許しください」


 バルトロメウスの代わりに頭を下げるエレンを、アリシアは慌てて止めた。


「あ、謝らないで! 事情はよくわかるし、全然、責めてないの! ただ、あまりに演技が上手っていうか、完全に飲まれてたっていうか……」


 バルトロメウスは「あはは」と笑った。


「長年嘘吐いてると、どっちが本当かわからなくなるからね」


 ベルも隣で援護した。


「ぼく、どっちのせんせも、すき!」

「ベル~! 先生もベルが好きだよ!」


 ベルを猫可愛がりするバルトロメウスは、顔の作りこそ端整だが心から楽しそうな笑顔をしていて、アリシアは何だかホッとしていた。

 極端な二面性には驚かされたが、人間らしい感情や表情のあるバルトロメウスの方が、緊張せずに接する事ができそうだ。

 アリシアが笑顔を見せると、バルトロメウスは「ふ」と魔術師の顔で微笑んだ。


「それにしても、今日のアリシアは花のように可愛らしいな」


 ミステリアスな宙色の瞳に囚われて、アリシアは爆発するみたいに真っ赤になった。バルトロメウスに着飾った自分を見てほしいという密かな願望は、意表を突かれる形で叶ってしまった。


「ず、ずるいですよ……」

「ん?」

「……」


 アリシアの鼓動は再び早鐘を打っていた。

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