プロローグ いつか会う私へ
「はぁはぁ……」
荒い息を吐きながら、自分の身体を抱えるように背中を丸めて壁によりかかる。腹に手をやると、滲んだ血が悴んだ手を温めていくのが感じられた。
空を見ようと懸命に目を開くが、目が血で滲み空の星どころか夜空の漆黒すらも感じることができない。目が焼けるように痛い。耐えきれず、開けた目をゆっくりと閉じた後、身体中に全神経を巡らせた。
腹部、左腕、右脚の出血、全身打撲、肋骨7本、右脚脛骨、背骨骨折、頭部打撲による出血および脳震盪。
ざっとこんなところか。
中でも最もひどいのは、
「ゔっ……」
息をするたびに肺がきしむ。
そっと胸に触れてみると左胸に細い棒が突き刺さっていた。
自分としたことが不覚だった。
成し遂げるべきことを執行することができない人間は生きる価値なんてない。そう思って生きてきた。
(笑えるな……)
自分に対してそう呟こうとする。
しかし、笑う力すら残っていない。頭がぼんやりとする。睡魔の感覚に近い。
一つ確信したことがある。
『私』はここで死ぬだろう。
だが……
心で言いかけた時、今まで奥底にしまい込んでいた顔ぶれが脳裏で笑う。
(なんとでも言え……)
きしむ肺に鞭を打ち、右腕で血が出ている頭部を強く圧迫する。
まだ、終わってはいない。
否、まだ終わってはいけない。
たとえ、今度会うのが『私』でなくなっても……
すると、急に身体が楽になって、その“男”は初めてこの世の地に倒れ込んだのだった。