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1-7 後始末-1

「パパ、結界張ったら、解体見てていいでしょ。」

「そうか、シャルはこんな大きなのの解体は初めてか。」

「うん」

「今日は見学してろ。明日は皮剥ぎだ。全身を1枚に剥ぐのはここでは無理だ。幾つかに分けるから、どっかの部分、やってもらうぞ。」

 そんな会話を交わしながら、パパとバグ兄と打ち合わせて、結界を張る位置を決め、結界を張る。

 パパのところに行って、邪魔にならない所に腰を下ろして、範囲探知を展開する。

 範囲探知は探査の一種だが、通常の探査が周囲の状況を積極的に調べて危険度や注意点を解析するのに対し、範囲探知は害意のある生物が探知範囲に侵入したときに警報を発する程度の機能しかない。

 しかし維持に必要な力が少なくていいので、長時間展開していてもさほど疲れない。


 パパがリュウイに刺さった槍に近づき、私に話しかける。

「シャルはさっきの戦いで、俺がこれを刺した時の話を覚えているかい。」

「うん。最初の一刺しで心臓に達したけど、心臓周りの防御魔法が強くて刺しきれず、周囲の皮膚や肉が槍に巻き付いてきて動かなくなったので、一旦手を離して、拳に込めた電撃を叩きつけて防御を突破し、心臓を貫いたんでしょ。」

 そりゃあ覚えてるよ。

 ついさっき聞いたばかりじゃない。

「よく覚えてるな。で、心臓を貫いてるのに血が出ていないのはなぜかな?」

 腹の中央付近から心臓に向けて三分の二程埋まった槍の柄を眺める。

 槍が刺さったときに流れたと思われる少量の血が、いく脈か見られる。 ウン?

「なんかその槍の柄、まだ強く締め付けられてるみたい。」

「そうだ。通常、肉体強化は死ぬと解除される。

 だが、リュウイは下等とは言え竜種だ。

 竜種を倒すときに厄介なことは幾つもあるが、これもその一つだ。

 死んでも肉体強化が解除されず相手の武器を奪ってしまう。

 覚えておけよ。」

「でもどうやって抜くの?」

「抜かないさ。収納する。」

 左手を軽く柄に触れると、槍が消え丸い穴が残る。 ズルイ!


「この穴は心臓までの一本道だ。そして体全体が緊張状態にある。と、こうなる。」

 穴からごぼごぼと音がして、血が噴き出す。

 だが穴の前にかざした左手の前で消える。血を収納しているのだ。

 左手の平で穴を塞ぐようにして、その手を見ながらパパがつぶやく。

「この方法では、完全な血抜きは無理だ。

 だが、野獣だらけの原野では妥協するのが、知恵だ。

 自分のできること、与えられた時間と場所、味方と敵の力関係、それらを考え併せて、一番いい方法を考えろ。」

 パパが私の方を見つめて言う。

「今もだ。今は他の誰かが、決定する。

 その決定と自分の考えの差は何か、その決定が引き起こす結果が正しかったかどうか、結果に満足できなければ、どうすればよかったのか、そんな考え方を身につけろ。」


 真剣な表情を崩すと、やさしく微笑む。 (ちょっとキモイ)

「お前も12になった。トリュンの町では成人の儀を行なう。」

 ひと息大きくため息をついた後、眼を逸らしてつぶやく。

「今日お前は、人を殺すことに同意した。あの時思ったんだ。大きくなったなって。」


 向こう側で何かしていたバグ兄が、ピョンとリュウイの背中に飛び乗って、こちらを見る。

 何か感じたのかビクッとするが、すぐいつもの気楽な調子で話しかける。

「向こうは終わったよ。血抜きはまだ?」

「もう少しかかりそうだ。こっち側も頼む。」


 バグ兄は手に持った、巻いた鎖のような物を、首を覆う盾の後ろに伸ばしながら置くと、その先についたロープを持って飛び降りる。

 リュウイからの距離を歩測し、地面を蹴って印をつける。

 頭の先に周り、両側を何回か見比べながら、印の位置を少し変え、腰に差した杭の様なものを打ち込む。

 もう一度向う側に回ると1mほどの棒を持ってきて、打ち込んだ杭の先に何かの金具で取り付けた。

「さあて。もういいだろう。血抜きは終わったぞ。」


「了解。」

 バグ兄は一言叫んで、リュウイの首元に飛び乗り、収納から大斧を取り出して、両手で大きく振りかぶると、首のすぐ後、腹側の柔らかそうな所に叩きつける。

 バグ兄は力持ちだ、今は肉体強化も使っているので、とんでもない力がかかった筈なのに、大斧の刃はほんの少しめり込んだだけだ。

 何回か大斧を振るい、切り口が見えてくると。

「こっち側お願い。」

 と叫んで向こう側に飛び降りた。


 パパはリュウイの首から下がったロープを持って、先ほど杭に取り付けた棒の先の方に巻き付ける。

 ロープには大分余裕があり、結び付けた残りは地面に垂れ下がっている。

 私も近づいて観察する。

 鎖かと思った部分は鉄で編んだ組みひもに牙のように尖ったものが刺さっている。

 剣呑だ。

「その牙のようなのは、コンチュータル山に住む削りトカゲの鱗だ。素手で触るなよ。掴んだだけで手の平がめちゃめちゃになる。」

 バグ兄が顔を出し、

「こっちはできた。引っ張って。」

 とパパに声をかけると、鱗のところを無造作につかんで、先ほど開けた傷口に当てる。

 「エッ!」と思ったが、鎖でできた手袋をはめていた。


 パパは棒が少し倒れるような位置にロープを巻き直し、垂れ下がったロープの先をつかんで「いいぞ~。」と叫ぶ。

 するとロープが向こう側に引っ張られて棒が立ち上がると真上に向いたあたりでガシンと言って止まる。

 そしたら今度はパパが引っ張り、向こうでガツンと音がして止まる。

 交互に引っ張り合いをしているのだが、この間に鱗の付いた所がガリガリとリュウイの首元を削り始めた。

 削られてロープはだんだん首筋に食い込んでゆく。

 時々ロープの長さやくくる位置を変えながら続けていると30分ほどで首の半ばまで達した。


 ここで一旦首からロープを外し、パパが切り口に手を突っ込んで何か引っ張り出す。

 あれは食道ね。

 細いロープを使って食道をきつく縛る。

 縛ったところから口の側を短刀で切断し、縛った食道は首の中に戻す。


 再びギッコンバッタンを繰り返して、切り口が低くなったら、2人は直接ロープを握って引き合いだ。

 1時間後にはゴロンと首が落ちた。


昨日、初めてポイントをいただきました。読んでくださる人がいるのはうれしいですね。励みになりますので、気に入っていただけたらよろしくお願いします。

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