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靴喪神~とんでも一家とのにぎやかな日々~  作者: 清十亀
第3章 スツラムへの旅
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3-10 ドラちゃん覚醒

 しばらくすると、リサが一人でやってきた。

 ヨナを見るなり、

「なんてやつをよこすんだ。叩き潰すとこだったぞ。」

 と、嫌そうな口調で文句を言う。

「伝言は受けられなかったのですか?」

 ヨナが不安そうに訊ねる。

「一撃をかわされた。伝言を早口でしゃべってそのまま逃げていったぞ。返答する暇もなかった。」

 バグがヨナの肩をいたわるように包みながら、問いかける。

「母さんの一撃を躱すとはすごいな。あいつ使えるんじゃないのか。

 ところで、父さんは?」


「向こうでもチャウカイラが出た。

 1匹仕留めたら、仲間を呼んだ。3匹拘束中だ。

 隙あらば他の人間に乗り移って逃げようとするので、ベネが監視している。」

「パパは大丈夫なの?」

 心配そうな顔でシャルが問う。

「ベネの不死身は精神体にも有効なようだ。侵入しようとする感覚はあったみたいだが、大丈夫だったぞ。」


 ここで、シャルがリサと握手する。シャルルンからリサたんにマギーからの情報と先ほどの状況を送ったのだ。

 同時に、涼がネットワークを張り、会話を念話に変える。

『ジュマに取り付いたやつもその呼びかけに応じようとしていたみたいですよ。植え付けられたばかりで、まだ乗っ取られてなかったようですね。』

『向こうの一匹、トピコムから来た女だが、昨晩ジュマを誘って一緒に帰ったそうだ。あいつに幼体を植え付けられたのか。』

≪幼体を植え付けられても、1日程度だとまだ大丈夫なようね。ジュマにとりついたやつ、まだ思考体へ侵入できるほど成長していないようだったわ。≫

『でもよかった。今の話だと、まだトリュンや帝国にまで侵入されて無いようですね。』

〔油断はできませんよ。でも、先ほど3人を探査して、精神パターンを解析して送りましたから、鑑定を持つ者ならチャウカイラが寄生していれば判ると思います。〕

≪それより、リサたん、カーラを鑑定してもらえる?私には浄化と治癒の違いが判らないの。≫

〔私も昨日『治癒にしては強すぎる』とは思ったけど。一度確認してみるわ。〕

 そう言うと、姿を消し、しばらくして再び現れた時にはこわばった表情を浮かべていた。

〔私にも治癒との違いが判らないわ。魔力の込め方の問題なのかな?〕

【あの~、これ見る?】

 恐る恐るといった感じで、涼が半分溶けたチャウカイラの遺体(?)を出す。

【これがカーラの浄化を浴びたチャウカイラだよ。僕も一瞬浴びたけど身体を何かが突き抜けるような痛さを感じたよ。チャウカイラも逃げようとしたみたいだけどジュマさんに侵入しかけてたから動けなかったみたい。】

『フム。必殺の武器を手に入れたと思ったが、むやみに使うと味方にも被害が出る可能性があるのか。リサたん、治癒の訓練方法は分かるか?』

 リサが、考え深げにリサたんに問いかけた。


 その時、新たな声が割り込んできた。

『すみません、カーラの鑑定です。視覚投影はまだできませんが、念話だけは発信できるようになりました。

 治癒の知識を獲得しましたので、カーラと共にこれから制御方法を身に着けてゆきたいと思います。

 ‟浄化“という概念は得ていませんが、先ほどのものは‟治癒”と発現方法は変わらないようです。ただ、心的な圧力に治癒とは違うものを感じました。

 カーラが通常の治癒が使えるようになれば、その違いが判るのではないかと思います。』


≪エッ、あんた、昨日とは別人じゃないの!すっごく進歩してる!

 私が意識なくしてる間に何があったの?≫

『ごめんなさい。名前つけちゃいました。皆さんが自分の鑑定と親しそうにお喋りしているのが羨ましかったので・・・』

 カーラが弱々しい声で告白する。

≪・・・まぁ、仕方ないか。この急成長が、なのか名付けの影響かは判断しようが無いけど。≫

〔あれから事態は急変していますよ。理由はともあれ、カーラの力を生かすには、鑑定の助けが必要でしょう。ここでの急成長はありがたいですよ。名付け効果の確認は、成長期の子より成熟したものの方が適任でしょうし、暇になってからでいいでしょう。〕


『それで、何て名前にしたの?』

 シャルがやさしくカーラの手を握りながら聞く。

『ドラです!ドラちゃんと呼んでください。』

 シ~ン。

 誰も言葉にしないが、思いは一緒だ。

『この子も名づけのセンスがない。』


 いち早く立ち直ったヨナが問いかける。

『それって、天空往来に出てくる従魔ドゥラッドから取ったの?』

『はい。私の名を天空往来の癒し手さまからいただいたので、その相棒ならこれしかないと思いました。

【ねえ。ドゥラッドって従魔、どんな役回りなの?】

 涼が念話ネットワークとは別の回路を作って、シャルだけに問いかける。

『癒し手の頭の上で丸まっているふとった黒猫よ。神の指示を伝えるため、神から与えられたの。でも、早とちりで神の指示を間違って伝え、みんなを窮地に追い込むの。』

≪ははは。シャルちゃんは本当に天空往来が嫌いなのね。ドゥラッドは早とちりなところはあるけど、不明確な神の指示を具体的な行動指針に変える知性の塊のような存在なのよ。いずれにしても、ドラちゃんはドゥラッドじゃないわ。私たちの仲間、あなたの妹の友達なのよ。そんな顔せずに仲良くしなさい。≫

『そうね。名前につられちゃったけど、私の可愛い妹とその相棒だものね。』

 照れ笑いのような顔でぺろりと舌を出すと、カーラの肩をやさしく抱いて、

「ドラちゃん、よろしくね。」と語りかけた。


 そんなやり取りの間に、リサとバグが話し合って、全員で教会に移ることにした。

 宿にはジュマの治療のためという理由を付けて、宿泊を取り消し、大型の馬車で寝たままのジュマを載せて運んだ。


 教会では、先ほどのリサたんによる解析結果をもとに、チャウカイラ捜索隊が作られていた。すでに教会内の人間の鑑定は終了しており、これから王宮や主な官庁、ギルドの探査に廻る手筈を整えているとのことだ。


 ジュマを教会の治療室に運んだ後、リサたちは先ほど会議を行っていた小屋に案内された。そこにはベネやバックの他、数人の神父がいて、床に並べられた3人を遠巻きに眺めていた。

 リサはシャルたち4人を入り口付近に待たせて、ベネたちに近づき、小声で話をしていたが、途中から顔をしかめて、チラチラとシャル達の方をうかがっている。

 結論が出たようだ。

 リサがカーラに向き直って言う。

「いきなりだが、カーラ。お前の力を見てみたい。私とシャルで補助するから、こいつらに治癒をかけてもらうぞ。」

 言いながら、涼に合図してネットワークを張るようにうながす。

『シャルルンはこいつらの精神構造を色分けしてくれ。チャウカイラらしきものは見逃すなよ。幼体や分体を作って潜んでいる可能性がある。

 それが終わったらカーラはこいつらに浄化を浴びせてくれ。リサたんが人の精神構造部分を守る。周囲に漏れる力は私が防ぐ。だから落ち着いて、少しづつ力を強めていってほしい。

 シャルルンはこいつらの声が聞こえるそうだな。何か叫び始めたら教えてくれ。

 涼は精神構造が見える映像をベネやバグ、ヨナに送ってくれ。

 アッと、カーラもまだ見えないか。涼、カーラにも頼む。

 では、一人づつ取り掛かろう。まずは手前の男からだ。結界を緩めるぞ。』

 それが、凄絶な一夜の始まりだった。


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