3-7 マギーの情報1-ボイド(鑑定)とチャウカイラ
シャルルンがマギーから得た情報の要約です。
この世界で‟鑑定”と呼ばれるギフトは、精神寄生体によるもので、彼らは自分たちのことを‟ボイド”と呼んでいる。ボイドには知性があり、知性を持つ生物に寄生し、その生物の繁殖に伴って子孫を増やす。
ボイドは宿主からエネルギーを受け取り、生命活動を維持している。そのお返しにボイドは情報を宿主に提供することで、宿主の生き残る確率を上げる。
ボイドが寄主に知性を求めるのは、ボイドの提供する情報を生かすためには、ある程度の知性が必要なためだ。
また、ボイドには各種の精神寄生体が寄生している。これらは知性を持たないが独自の能力を持つ。ボイドはその寄生体を品種改良して、宿主の生存率を上げる能力の寄生体を作り上げてきた。この世界でギフトと呼ばれる能力、結界や探査などの能力はそれぞれの特性を有する寄生体が持つ能力を発現させたものだ。そういった能力の存在を宿主に伝え、有効に活用させるのもボイドの仕事の一つである。
ボイドは基本的には同一の形態 (見た目ではなく機能の話です)なのだが、ボイドにも個人差と言うものがあって、優秀な者、特に異世界間の通信能力を持つような個体が選ばれて‟マザー”という特殊個体を作る。
マザーは一般の個体に、様々な能力のギフトを付与させて出来上がるもので、宿主が死んでも単独で生きることができ、その子孫のすべてと精神ネットワークを作る能力を有する。
ボイドが拠点としている世界にはマザーだけが暮らす場所があって、宿主を失ったマザーが集まってくる。
この単離したマザーたちには3つの選択肢が与えられる。
ひとつは、ボイドの繁栄のため、ボイドが拠点としている世界や他のボイドが繁殖している世界の管理をするためこの地にとどまること。
もう一つは、別の繁殖地に旅立ち、後継者としてその世界を管理すること。
最後の一つは、新しい世界に旅立ち、新たにボイドが繁殖する世界を構築すること。
最後の選択をし、新たな世界に繁殖地を築いた者が‟真のマザー”と呼ばれることとなる。
涼の落ちてきたこの世界のマザーが、この世界で‟しずか様”として知られるセイなのだ。セイは始祖、田島啓介と共にこの世界に降り立ち、始祖の積極的な貢献に支えられて瞬く間に人類との共存関係を確立して、‟真のマザー”となった。
ボイドの精神ネットワークは、個々のボイドが直接マザーに情報を提供し、すべての個体がマザーから情報を得ることができる。ただ、マザー以外のボイド同士は直接接触している時しか通話ができない。このため、マザーが何らかの理由で活動できなくなると次のマザーが来るまで、ネットワークがストップしてしまう。ボイドはこの欠点を補うため、拠点での管理を行い、適当な時期に後継者を送り出すのだ。
チャウカイラもボイドと同じく、知性を持つ精神寄生体である。ただ情報の共有関係は大きく異なる。母株と呼ばれる1体から生まれた子株は母株とネットワークを作ることができる。しかし、子株から生まれた孫株は母株と直接やり取りできない。孫株は子株を通して、母株と通信することになる。このため、子株が死ぬと孫株は母株や他の子株と通信できなくなる。つまり、別々の集団となってしまうのだ。
これを補うためか、チャウカイラは1人の宿主に複数の株が存在することができる。別集団の株が接触状態を保つことで、あたかも一つの集団のように機能することができるようになる。
チャウカイラの最大の特徴は、その繁殖速度の速さだ。
ボイドはその繁殖を宿主の繁殖に依存している。知的生命体はその世界の生態系で優位な位置にあることから、生殖周期が長くなる傾向がある。
しかし、チャウカイラは宿主同士が接触していると、表皮を通して幼株を相手に植え付けることができる。つまり、自分のペースで繁殖できるのだ。幼株が成熟するのにかかる期間は約1年、幼株を生産する周期は2ヵ月。
また、幼体、成体共に宿主を変えることが可能だ。
宿主の体内に幼株を植え付け、共存することが可能なので、他者と接触機会が少ない宿主でも自者の体内で成熟させ、機会があれば乗り移ることで、繁殖周期を早めることができる。
チャウカイラには宿主の考えを理解し活用するだけの知性がある。ただ、その知性はチャウカイラが繁栄することを目的として使用される。チャウカイラにとって宿主は繁殖の道具でしかない。宿主の特性を使って、自分たちが最も繁殖するのに適した手法を模索し、実行する。必要があれば宿主の思考空間を乗っ取り、自分たちに有利な活動を強制することもできる。このため、ほとんどの場合、宿主はチャウカイラの繁殖の苗床として使用され、滅亡する。
チャウカイラには拠点とする場所や故郷と言う概念はない。いろいろな世界に降り立ち、その世界の繁殖資源が枯渇すると別の世界に移るだけの話なのだ。幾体かの宿主に多数の成体を寄生させて、異世界へと旅立つ。
チャウカイラは直系個体としか精神的なリンクができないといったが、それとは別に各個体が親から引き継ぐ記憶と言うものがある。そこにはこれまで旅してきた世界の情報や敵に関する記憶が含まれる。
ボイドはもちろん敵だ。強敵として認識されており、出会えば抹殺しなければならない。
これまで何度も対決したが、勝負は半々、宿主の特性によって勝敗は左右される。
宿主が人間の場合は、事例が少なく、予断を許さない
話が一段落したところで、シャルルンがネットワーク内に姿を現す。
ちょっと疲れた顔で一同を見回すと、
≪さっきのジュマの様子からすると、ジュマは最近チャウカイラに寄生された誰かと接触して、幼株を植え付けられたのね。そして、おそらくだけど、母株か別の子株が脅威にさらされたので、招集がかかったんじゃないかな。慌てて、宿主を支配しようとしたけど抵抗されてああなったんじゃないかと思うよ。≫
と、現在の状況検討に移る。
『ジュマがここへ来たのは昨日か昨晩じゃないのか?もしかして、チャウカイラはもうトリュンにまで侵入してるかもしれんぞ。』とバグ。
『私それよりも、帝国に連れていかれた子たちの中に、チャウカイラが紛れ込んでないか心配だわ。西大陸はこちらより人は多いし、行き来も活発だと聞いているから、向こうに渡ってしまったら、収拾がつかなくなるんじゃない?』
≪わかったわ。今の意見も添えて、世界の知識に・・・しずか様に、伝えておくわね。≫
【ねえ、チャウカイラのことはもういいだろ。親父とお袋の件、マギーは何て言ってるの。】
待ちきれない子供のように急かす涼を一同は同情の眼で眺める。
≪フゥ~、お待たせ。やっと整理出来たわ。とりあえず、最後まで黙って聞いてね。≫
そう言うと、シャルルンは語りだした。