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靴喪神~とんでも一家とのにぎやかな日々~  作者: 清十亀
第3章 スツラムへの旅
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3-6 ジュマの異変

 涼たちの方は、宿に着いて部屋に荷物を置いた後、ロビーに集まり、リサたちが来るのを待っていた。

 シャルは相変わらず沈痛な面持ちでソファーに座り、カーラが手を握って寄り添っている。

 涼は鞄に入った靴から体を乗り出してシャルとカーラを包み込んでいる。

 バグとヨナは、低いテーブルをはさんでジュマに向かい合って座り、剣術談義をしている。


 突然ジュマが唐突に立ち上がろうとしてバランスを崩し、床に突っ伏すように倒れ込んだ。起き上がろうとするかのように手足をうごめかすのだが、動きがバラバラなため、うつぶせのまま顔も上げずにのたうっている。

 バグは駆け寄ろうとしたヨナを押しとどめると、シャルの方を見て「涼」と短く呼ぶ。

 涼はその視線に答えて、すぐにネットワークを張る。

『何か見えるか?』

【体から触手がいっぱい出てるよ。長くは伸ばせないみたい。あちこち触ってるけど、上手く掴めないみたい。】

 バグの問いに涼が答えた時、ホテルの係員が駆けつけてきた。

「どうなされました?」

「急に倒れた。すまんが、原因が不明なので、触らない方が良いと思う。こちらで応急治療は出来るので、周りに結界を張らせてもらうぞ。

 ヨナ、状態異常解除を頼む。」

 係員を下がらせると、バグは結界を張り、視界を遮断する。シャルとカーラも近寄ってきて結界内に入る。

「状態異常解除を掛けたけど、様子はどう?」ヨナが訊ねる。

 涼は答えようとして、思いついたので、みんなにも涼の見ているものが見えるように視界を変える。

「何これ!」突然視界が変化し、カーラが叫び声を上げようとするので、シャルが手でカーラの口を塞ぎ、小声で「うちの家族になったんだから、このぐらいで驚いてちゃだめよ。」と諭す。

『声は出すな。念話を使え。』とバグが指示する。

『異常解除、回復魔法を使っているけど、変化が無いわね。これは涼と同じモノ?

 憑依だったら魔法では無理ね。呪術は専門外よ。』


≪これがチャウカイラなのね。≫

 突然シャルルンの声がする。

『シャルルン、大丈夫?!』

≪ごめんね、いきなり起こされたので、まだ実体化できないの。≫

『起こされた?この人が突然倒れて、慌てちゃってたから。うるさかった?』

≪違う、違う。シャルのせいじゃないよ。涼やみんなにはこの声聞こえないの?≫

【声? この人、うめき声も上げてないけど。】

≪ギャー、ギャーって、遠くから響いてくる声があるのよ。緊急時の警報みたいね。

 そうか。マギーの奴、知識を渡すだけじゃなく、思考構造を変えやがったな。

 私、どのくらい眠ってた?≫

『昨日の夜からだから、12時間以上眠ってたみたい。今は次の日の午後3時頃。』

【それより、あれは何? チャウカイラに寄生されるとああなるの?】

≪あら!知識が追加されてる。

 ギャーギャーいう声は母株の緊急信号ね。自分から分岐した子株に招集をかけてるんだわ。

 その人についてる子株はまだ幼体みたい。母株に呼ばれて、行こうとしてるんだけど、まだ宿主をうまく操れないみたい。≫

【この人、もう助からないの?】

≪今ならまだいけるかもしれない。涼、その人の精神世界に入って。みんなに精神構造を表示しなさい。気味が悪い?あんな触手無視、無視。危なそうだったら焼き切ってやるわ。≫

 視界が変わり、精神構造が表示される。

≪あれよ!思考空間を覆っている影。おっ、ノッドが食い込もうとする触手と戦っている。まだ間に合いそうね。≫

【ここからどうすればいいの?】

≪ちょっと待ってね。

 この人のノッドは8個か。触手の方は10本ある。

 ノッドが相手できない2本が食い込もうとしてるのね。

 涼、炎の魔法で・・・って、無理か。涼の制御力じゃあこの人を殺すわ。

 涼、チャウカイラの身体掴める?

 シャル、チャウカイラを茶色に塗ったわ。触手の8本は緑に塗ったけど、2本だけ真っ白にした。

 右側の白色触手の根元に火炎を出して、左を私がするからタイミングを合わせて。≫

【掴めたけど、どうするの?】

≪引っ張って。エッ、やり方がわからないの。掴んだ体をその間の空間ともども自分の方に圧縮しなさい。そう、魔素を圧縮した要領でいい。

 シャル、行くわよ。ファイヤー!≫

 白く塗られた触手の根元から発火する。思考空間に張り付いていた茶色の塊が少し浮き上がったようだ。だが、

『ジュマの身体が跳ね上がったぞ。身体全体が小刻みに震えだした。シャルルン大丈夫なのか?』

 バグの必死の念が伝わってくる。

≪くそ、離れないか。逆にノッドの動きが鈍くなってしまった。

 ヨナさん、身体に回復魔法をかけてちょうだい。そう、体力回復でいいわ。

 そうだ。カーラ、この人に治癒を掛けられる?

 エッ、さっきリサたんに強すぎるって言われた?気にしないで、全力で掛けて。強すぎるようなら私が調整するから。

 それじゃあ、涼、シャルちゃん、もう一回お願い。ゴー!≫

 再び触手付近で発火し、茶色の塊が少し離れるが、すぐに元に戻ろうとする。その時、

【アーチチッチ、体が熱いよ~!】

 そう言って、涼がシャルの傍まで飛び戻ってきた。

≪根性無し!頑張らんかい・・・・・・≫

 涼を怒鳴りつけるシャルルンの声が急にしぼむ。

 思考空間に張り付いていたチャウカイラの身体が溶け始めたのだ。

 最初は表面が泡立つように沸騰したかと思うと、急速に縮んでゆくチャウカイラ。

 思考空間にとりついていた触手も力なく離れ、縮こまってゆく。

≪いけない!≫

 我に返ったシャルルンが、慌ててジュマの思考空間を結界で覆う。

 その結界の表面が光り始める。

≪カーラだ。治癒を止めて!≫

 途端に、発光が収まり、あたりに静寂が満ちた。


 ふた呼吸ほどは、誰も動かなかった。

 結界が消え、シャルルンが疲れたような声で、

≪涼、その残骸、収納してくれる?≫

【そんなことして大丈夫? 僕は。】

≪生きていたら収納できないわよ。収納することで死んだことを確認したいの。それに、後でリサたんが見たがると思うよ。≫

 涼が恐る恐る近づき、茶色のしぼんだ塊に手を伸ばすと、そいつは掻き消えた。


 発作が収まったが、安静が必要だということにして、ホテルに部屋を用意してもらい、ジュマをそこに運んでもらった。ジュマが教会の枢機卿付きの侍史だということで、結構広い部屋が用意された。

 その間にヨナはリサ宛に伝言を送る。ホテル内なので適当な生き物がおらず、ゴキブリを使った。それを見たみんなは『大丈夫か?!』と思ったのだが、相手がリサなので大丈夫だと思うことにした。

 ジュマの部屋に4人は集まり、シャルルンの話を聞く。

 マギーがシャルルンに与えた知識は、涼のそれと同様、シャルルン自身が知っていることではなく、疑問や質問に応じて浮かび上がってくるものなので、バグ、ヨナが主に質問し、追加でシャルや涼が別の側面から訊ねる方法で進めた。


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