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靴喪神~とんでも一家とのにぎやかな日々~  作者: 清十亀
第3章 スツラムへの旅
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3-5 帝国の諜報員

 リサとベネが案内されたのは教会だった。

 ダンたちが会釈すると、受付は何も言わず、リサとベネを通す。彼らが他の人を連れてくるのはいつものことのようだ。

 教会の建物を抜けると木々の生えた庭があり、その一角に小屋が建っている。

 そこに入ると大きな会議室になっていて、机がロの字に並んでいる。

 8人がすでに席についていた。男が5人、女が3人だ。

 入って右側の席が空いていたのでそちらに進み、奥からリサ、ベネの順に座る。

 その横にダンが座る。カンは入り口横に立って控える。


 奥に座っている3人のうち、真ん中の人物が立ち上がった。

「ようこそ、良くおいでくださいました。私はこの支所の長を務めておりますバックと申します。お分かりだと思いますが偽名です。他のものも同じですので、紹介は省略しましょう。」

「わかっている。私はリサ、隣のはベネだ。スツラムの情報を教えてもらいに来た。

 そちらも何か聞きたいことがあるらしいな。

 ところで、君も高度な鑑定を持っているようだな。うちの鑑定がうざったがってるので、手を収めてくれないか。」

 リサが席に着いた時から、バックと言う男から出た鑑定の触手がリサとベネに触れようとしてきた。リサたんが威圧するとびっくりしたように離れるのだが、少し離れたところでゆらゆら揺れている。隙を見て取り付き、知識を読もうとしているようだ。

 バックはびっくりしたようで、触手は慌てて引っ込んだ。

「し、失礼しました。『最強のメンツを送る』との連絡があったものですので、つい、興味をひかれまして。」

「その力があれば、かなりの情報が集まっているとみていいかな。わたしも、仕事は受けたものの、状況や敵について何も説明を受けてないものでね。」

 ここで、ダンが口をはさむ。

「指示を受けて、サルバレス枢機卿とお話しさせていただきました。リサ様は名は明かせぬが名門の系譜に繋がるお方で、陛下が指名して遠話により直接指示されたとのことです。決して粗略に対応せぬようにとのお言葉をいただいております。」

 陛下と言う言葉が出たとたん、場に緊張が走り、2人を見る目が厳しくなった。

 ここで、ベネがリサに何か耳打ちし、リサが小さくうなずくと、ベネはバックに目をやって、

「その力を持っているということは、あなたは‟B”で始まる名家の3男坊だな。あなたが、この地域の総責任者なのだな。わたしは陛下からあなたの助けになるようにとの指示を受けている。それを果たすために協力をお願いしたい。」

 と確認するように、ゆっくりと話す。


 ここで、ベネがこんな物言いをしたのは、リサたちが陛下直属の精鋭で、諜報部隊にすら秘密の活動を行っている特殊部隊だと意識させるためである。

 この場にいた者たちから、『自分たちと同等以下の者が陛下の寵愛を受けている』という、嫉妬に似た感情を感じたので、『俺たちは生まれからして高貴で、お前たちより長く陛下のお傍にいたのだぞ』と格上であることをアピールしたのだ。騎士時代に、こういった感情のせめぎ合いを続けてきた、ベネの処世術である。

 案の定、ベネとリサを見る目から険が消え、畏怖するようなまなざしに変化した。


「君たちは精神寄生体と言う言葉を聞いたことはあるか。」

 いきなり、リサが核心にせまる質問を発する。

 バックらは、互いに顔を見合わせ、首を横に振る。

「私が提供できる情報はそれぐらいしかない。ただ、それが具体的に人にどう作用するのかわからない。出所は聞くなよ。鑑定で調べても出てこないような情報だ。」

 リサの言葉にかぶせるように、ベネが付け加える。

「具体的にどのようなことが起きているのか。『なぜ?』と思えるような出来事は無いのか知りたい。」


「元々私は、この国の諜報担当の長です。東大陸東部の指揮官はトピコムにいました。

 スツラムの異変を感じてから、何人もの諜報員を派遣したのですが、誰も帰ってきませんでした。そこで半年ほど前、指揮官自らスツラムへ向かったのですが、音信不通となりました。

 そして、4ヵ月ほど前にトピコムに残った諜報員に異変が起きます。集められていた30人の内、8名が殺され、4名が行方不明となりました。

 その時点でトピコムの指揮官代理から私に指揮権の移譲と諜報員の受け入れ要請がありました。

 ここに現れた者は14名。指揮官代理も含めて4名は行方不明です。」

「殺された者の死因は?」

「刀傷が5名、魔法による者3名と聞いております。」

「この中にトピコムから来たものはいるのか?」

 みんなの目が入り口側の席に座る2人を見る。男女各1人。男の方が小さく手を挙げ、

「私とこちらのナシュがトピコムから移ってきました。」と小さくつぶやく。

「バック。君の鑑定は接触した相手の思考を読めるのだろう。トピコムから来た者たちに使ったことは無いのか。」

「わたしのは、相手が思ったことがわかるだけですので、噓をついているのでもなければ、言葉で聞くのと変わりありませんよ。」

「今から、私がこの2人に質問するから、鑑定していてほしい。」

「えっ、この2人をお疑いなのですか?」

「いや、確信してるよ。」

 リサがそういった途端、ナシュと呼ばれた女性から何十本もの、指の大きさほどの針が飛び出し、リサとベネを襲う。

 ベネはそれに頓着すること無く、机を飛び越えると、ナシュに飛び掛かり、片腕を決めると腰をひねって、ナシュを顔から地面に叩きつけた。

 リサの方は結界を張って、針を止めている。

「動くな。」リサの威圧を込めた言葉は、立ち上がろうと腰を浮かせた者たちを釘付けにした。


 ベネは片腕を決めたまま、うつぶせになった女を抑え込んでいるのだが、

「おい、リサ。なんか、俺に入り込もうとするような感じがあるんだが、どうしたらいい?」

「その女はまだ抵抗しているのか?」

「いや、意識はないはずだ。身体も弛緩しているし、動きもない。だが、この触っているあたりで、何かが入り込もうとあがいているんだ。」

「フム、宿主の意識がなくとも動けるのか。厄介だな。」

 リサはそう言いながらベネのそばに立つと片腕を伸ばして女の身体を包み込むように結界を張る。

「これでどうだ。」

「おう、動きが収まった。」

「最高強度にしたが、このままだと女が窒息死するな。空気だけ通過させるには・・・

 これでどうだ。」

「入り込むような動きは感じられないな。わかっていて静かにしている可能性もあるぞ。」

「とりあえず、その隅の方に持って行ってくれ。

 みんな、うかつに触るんじゃないぞ。致死性の伝染病だと思え。」


「ご説明いただけますか。」

 ベネが女を部屋の隅に寝かし、自分の席に戻ったころ、ようやく立ち直ったバックがリサに訊ねる。

「先ほど言った精神寄生体とは、人の心に寄生する精神体のことだ。言葉としてはわかるが、具体的に何をするのかは知らなかった。

 今の彼女の行動から見ると、完全に自我を乗っ取られているようだな。

 どうやって寄生するのか、寄生した精神体を殺せば元に戻るのか、そういったことは全くわからない。

 だからカマをかけた。

 私の鑑定も君のと同じようなことが出来るのでね、部屋全体に精神探査をかけていたのさ。

『精神寄生体』に反応したのがこの女だ。見た目はみんなと同じように知らないふりをしていたが、心の中はバグバグで、私の言葉ごとに慌てていてな。とうとう攻撃魔法まで唱えだしたので、ベネに取り押さえてもらったんだ。」

「そう言えば、ベネ殿、まともに攻撃を浴びておられたが、大丈夫なのですか。」

「俺に物理攻撃は効かんよ。服はボロボロになったが、肉体は何ともない。」

「それより、聞きたいことがある。トピコムからの14人はいっぺんにこちらに移ったのか?」

 それには、トピコムから来た男の方が答える。

「私たち10人は、戦闘技術を持っていないので、すぐに避難しました。戦闘力のある8人は経緯を見ながら、毎週1人ずつこちらに来る予定だったのですが、最初のひと月は誰も来ませんでした。5週目にナシュが来た時は、誰も来ていないと聞いて驚いていましたので、待ち伏せにでもあったのだろうと思います。ナシュの後は、4人とも無事着きましたので、待ち伏せは解除されたのだと思っていました。」

「となると、ナシュより後に来た3人は精神寄生体に侵されている可能性が高いな。

 その3人、今はどこにいて、何をしている?」

「1人はトピコムに再潜入しています。残り2人は宿舎にいるはずですが、自由時間なので所在は不明です。

 トージ。ドッジと連絡を取れ。チャックとセムの所在を確認しろ。」

 トージと呼ばれた男は、瞑想に入る。特定の人間と近距離の念話をしているのだろう。

「バック、今、この建物に出入りする予定はあるか?」

「我々以外は、誰も。」

「では、この建物の周りに罠を仕掛ける。しばらく外に出るなよ。」

 リサがそう言うと、窓の外が薄い霧のようなもので覆われた。

「何をした?」

 それを興味深げに眺めながら、ベネが問う。

「諜報員と言うからには、隠形持ちだろうし、戦闘技術持ちと言ったら暗殺術だろう。

 そんな奴にこっそり近づかれたくないのでな。隠形は探査では捉えられないが、あの霧に触れると電撃が走る。それなら目で捉えられるだろう。

 熊狩りの時、ヨナが使って、便利だと言っていたので真似をしてみた。あいつほど強力なのは出来ないが、痺れる位の威力はあるはずだぞ。」


「2人が先ほど宿舎から飛び出していったそうです、なりふり構わぬ様子で、何人もが見ています。」とトージが報告する。

「その宿舎からここまで、どのくらいかかる?」

「こいつを捕まえた時に出たのであれば、もう着くころです。」

「教会の結界を抜けるまでは、隠形はかけていない筈だから、もう少しかかるかな。」

「あいつらの隠形は通常の結界なら感知されません。そういう仕事ですので。」

 リサの呟きにバックが答えた時、窓の外が光ったと思うと、『バチッ!』っという大きな音が鳴り響いた。

「殺すなよ。」

 リサがみんなに指示を出した時には窓と戸口から人が飛び込んできた。


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