3-4 王都到着
リサたんの視点です。
リサとヨナは先ほどの出来事を話し合って、盛り上がっている。
ベネとバグは横で不審そうな顔をして聞きながら、何事かささやき合っている。
シャルは落ち着かない様子で椅子に座り、何かを耐えている。きっとシャルルンのことが心配なんだろう。
涼君は姿を現して(普通の人には見えません)突っ立っているが、心ここに非ずと言った感じだ。父母のことが知りたくて、シャルルンが目覚めるのを待っているのだろう。
私はしずか様と会った事で、鑑定能力の深化が起こったのではないかと、知識を探っているのだが、特段の変化は見られない。
ふと、温かい波を感じた。目を向けると、シャルの傍にカーラがいて、静かにシャルの手を握っている。元気づけたいが、やり方がわからないそんな不安が窺える。
『ああ、“治癒”が発現したのだな。』
最初はそんな感じだった。しかし、少しづつ強くなる波を感じるうちに、違和感が出てきた。傷や痛みを癒す柔らかな波ではない。もっと積極的な活動を体に求め、高揚感をうながす力・・・これは、豊穣の光珠?
いや、豊穣の光珠は周囲に広く浸透するが、この波には指向性がある。その方向にいない私に感じられる力、これはやばいかも!
強すぎる癒しは、身体が持つ本来の再生力を暴走させることがある。
カーラはまだ制御法を知らない。
リサは興奮状態だ。今声をかけても無駄!下手をすると逆切れされる。
涼にネットワークを張ってもらおうとするが、涼の件、カーラに内緒だと気付く。
仕方ないので、涼の真似をして触手を出す。これまでも何回か使用した手だが、自分で気持ち悪いと思っているので、あまりやりたくない。
触手でカーラに触れる。どっと流れ込む“喜び”が、瞬時に‟疑念”に変わる。カーラの鑑定だろう。シャルルンだと思ったのに違ったので、警戒しているようだ。
〔リサの鑑定のリサたんだ。カーラに治癒を抑えるよう伝えなさい。〕
カーラの鑑定が混乱しているのが、分かる。何をしたらいいのかわからないのか。
〔シャルルンは大丈夫です。必要なのは静かな時間。カーラにそう伝えて。〕
しばらくすると、突然波が消える。やはり、自覚なしに治癒を使っていたようだ。
〔カーラ、私の声が聞こえる?〕
シャルルンが念話を教えていたのを思い出したので、カーラに声をかけてみた。
『はい!カーラです。初めまして。リサさんの鑑定さんですね。』
しっかりした声が帰ってくる。賢い子だ、シャルやシャルルンが気に入るはずだ。
〔今、あなたが癒しのギフトを使ったのはわかる?〕
『何だか、身体が熱いと思ってたんですが、あれが治癒なんですか。いつもは、ああなると周りから気味悪がられてたんですけど。』
〔あなたのは、普通の治癒とは少し違うようですね。今のだと強すぎて、受けた方が攻撃を受けたように感じても不思議ありませんよ。シャルルンには言っておきますから、制御することを学びなさい。〕
『ありがとうございます。』
面白い子だ。もう少し話をしたかったのだが、リサから問いかけが入ったので、接続を切った。
『リサたん。おまえはチャウカイラというのを知っていたのか。』
〔いえ、初耳でしたよ。マザーの件もね。今も調べていたんですが、何もありませんね。〕
『ヨナが聞いているのだが、鑑定などのギフトを外す方法などは存在するのか?』
〔・・・見当たりませんね。死ぬときにギフトを渡すことができるのはご存じですよね。〕
『ゴルナドがベネに渡した‟不死身“のことだな。
そういえば、お前たちは子供に分け与えられるのだったな。それはどんな感じだ。』
〔自覚したことはありませんね。子孫に受け継がれるということは知っていますが。
バグの時もシャルの時も、特に意識したことは無かったですよ。
フム、世界の知識にも無いようですね。見えないだけかもしれませんが。〕
『女性でも分からないのか。出産の時に何かあるのかと思ったのだが。
男性なんかどうするんだろうな。射精の度に分け与えるのかな?』
〔マギーが起きたら聞いてみますよ。〕
などと話していたら、船員が夜中に何事か起きたのかと、訪ねてきた。
ベネがごまかしたが、とりあえずシャルルンが起きるのを待とうということになり、一同眠りについた。
翌朝になったが、朝食時にもシャルルンはまだ目を覚まさない。
シャル、涼、カーラの3人は気になってろくに寝ていないようだ。
ベネたち4人はぐっすりと眠った。リサたんもだ。
ベネから子供たちには、気分の切り替えをしろと指導が入った。
リサたんが進言して、カーラに涼の存在を伝えることにした。
「異世界から来た精霊体で、念話ネットワークを構築するなど特殊能力を持っているが、魔力制御に難があるので、カーラとはこれから一緒に訓練することになる。」というのがリサの説明だ。
カーラは幼児体系のかわいい精霊を想像したようで、『涼ちゃん、これから一緒に遊ぼうね。』と言っている。周りは苦笑しているが、誰も否定しない。
昼前にタラノスコ国の王都ベギンタールに着いた。シャルルンはまだ起きて来ない。
王都の港は大きい。荷上場の岸壁は数百m続く。そこからT字型の桟橋が幾本も突き出している。上流側には30m程の桟橋が3本、下流側には50m級の桟橋が数本、全貌が見えない。
上流側がトリュン行きのものらしく、そのうちの一本に船が横付けした。
特別室の客から順に降ろすということで、下船口に集まって、船着き場を眺めていると、涼が突然、
【色の付いた人がいる。どこで会った人かな?】
と念話で皆に伝えてきた。
涼の示す方を見ると、船から少し離れたところに、剣を腰に差した冒険者風の装いをした3人の男がたたずんでいる。
『小柄なのはサルバレスの侍史だな。たしかジュマというやつだ。』とリサ。
〔残り2人はトリュンで流れの冒険者として登録されていますが、他地域での記録がありません。つまり、帝国の密偵ということでしょうね。〕
『陸路で俺たちを追ってきたのか。まあ、手間が省けた。陛下も仕事が速い。』
ベネはほっとしたように呟いた。
下船してジュマの方に歩み寄ると、ジュマはにっこりと笑って、挨拶してきた。
「すぐに気づかれたようですね。お疲れのところ申し訳ありません。こちらはダンとカン、私たちの友人です。」
「身分は承知している。わざわざトリュンからごくろう。こちらから探しに行かなければと話していたところだ。どこか落ち着いて話せるところはないか。」
リサが手短に話すと、密偵の2人は納得したようにうなずき合ったのち、ダンの方が、
「宿はお取りしています。今からご案内しますが、リサ様、ベネ様。お二人に少しお聞きしたい事、お伝えしたいことなどがございますので、少しお時間をいただきたいのですが。」と言う。
うなずいて賛意を示すと、ジュマは残り4人を連れて、宿に向かう。
リサとベネは、ダンとカンの案内で、彼らの拠点に向かった。
年が明けてから、小さなトラブルが重なって押し寄せています。
そのしわ寄せで、投稿が遅れていますことをお詫びします。
この状態、2月いっぱい続きそうなので、これからしばらくは投稿が不定期になります。
悪しからず。