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靴喪神~とんでも一家とのにぎやかな日々~  作者: 清十亀
第3章 スツラムへの旅
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3-3 父さんは始祖、母さんは・・・

涼の視点です。

 涼の父、田島 啓介けいすけは母のめぐみと一緒に別荘地の管理会社を経営している。

 20年前に別荘地の管理人としてこの地にやってきた。この2人が来てからこの別荘地はよく手入れされ、頼まれれば個人の庭の管理までしてもらえることから評判となった。しばらくして、他の別荘地の管理も頼まれるようになったため、独立した会社を設立し、現在では繁忙期のアルバイトを含め、20人近い人を雇って、この地域で10数ヵ所の別荘地を管理している。

 父さんは明るく温厚で、基本、放任主義なのだが、自分を律する姿勢は厳しく、子供ながらに手本にしたいと思っていた。地元の人たちからも受けが良く、結構偉い人たちからも頼りにされていると聞いている。

 母さんはおとなしい人だ。自然を愛するというか、別荘地を自然に溶け込ますように樹木を整備し、『みずみずしい景観』を創出するのが楽しいそうで、1年中別荘地を飛び回っている。管理する別荘地周辺ばかりでなく、そこから見える景観にすら手を加えているようで、向かいの山の荒廃地を勝手に整備したこともあったと聞いている。

 時折大阪弁を話す父と奇麗な標準語を話す母がどこで知り合ったのかは、聞いたことが無い。母がいまだに情熱的なまなざしを父に向けているのをみると、過去に何かあったのだと思う。


 そんな父が『始祖』だって~!

 大陸全土を統一し、200年も皇帝の座にいて、その後も300年にわたって東大陸全土を旅した超人だぞ。鑑定の種をばら撒くためだとは言っても、2000人の子を産ませた奴だぞ。

 母さんは知らないんだろうけど。

 ん? 知らなかったのか? 知ってたとしたら・・・



【ねえ、マギー。僕の母のことは知ってる?】

〖聖女様でしょ。〗

 即答だ。ヤッパリというか、絶対そうであってほしくなかった展開が来た。

【何で。何で、皇帝と教皇やってた2人が、片田舎で小さな会社経営やってるんだよ】。

〖そんなの知らないわよ。帰ったら自分で聞いたらいいじゃない。〗

【帰れるの?!】

〖技術は要るけどね。精神体だからそれほど難しくはないわよ。ただ、向こうの世界に肉体は必要だけど。〗


「ちょっといいかな?」

 リサさんが口をはさむ。

「私が魔族の世界に行ったときは、肉体が再現されたのだが、涼の世界では違うのか。」

〖あなたはこちらの世界に肉体があるでしょ。魔族の世界は魔素が豊富にあるので、意識下で自動的に再現したんでしょうね。涼は肉体が無くなっちゃったし、向こうの世界は魔素が全く無いから、一から作らなくっちゃね。〗

【僕の体なら持ってるよ!収納してる。・・・でも、全部はそろってないし、ぐちゃぐちゃだし…】

〖リュウイにバラされたやつでしょ。あれは私の作ったダミーだから要らないわ。必要だったら作ってあげるけど、今は無理。

 セイ様の問答無用の攻撃、あれは凄かった。あれで涼の元の身体は消滅したわ。私と涼の精神体を守るのがやっとよ。

 やっといてから『ごめん、間違えた。』って言われてもね~。

 最後の力を振り絞って、涼の身体を再現してみたんだけど、張りぼてだったわ。

 それすらもリュウイに瞬殺だからねぇ~。傷がついてない靴があったから、とりあえず涼をそこに放り込んでから、今まで熟睡してたのよ。

 あんな起こし方ってある?セイ様乱暴だわぁ~。〗

「何でしずか様は、君を攻撃したんだ?」

〖チャウカイラと間違えられたのよ。ここしばらく次元転移でやってくる正体不明の奴らがいたんで、警戒してたんでしょ。霊子分解魔法って起動が遅いから、転移の兆候を察知したら準備するのよ。発動し終ってから同族だって気づいたんでしょ。セイ様疲れてるのね。〗


 僕は茫然として、二人の会話を聞き流していたが、突然体に温かいものが触れた。シャルちゃんが僕の手を握ってくれている。シャルルンは僕の肩を包み込むように広がり、やさしく抱きしめている。

 涙が出そうになった。この2人が僕がここにいる理由なのかな?

 一瞬そう思ったが、次の瞬間恥ずかしくて堪らなくなり、気持ちをかき混ぜてごまかした。


 マギーの話は続く。

〖ともかく、私の精神機能は今ズタズタなの。あと2週間ほど眠らせてちょうだい。スツラムに着くのはもっと先でしょ。〗

「そうだな、1ヵ月以上はかかると思うぞ。だが、チャウカイラ退治はどうするんだ。」

〖さっきの流れで分かるでしょ。スツラムの異変の原因がチャウカイラなのよ。セイ様からチャウカイラ退治の策が届くまでに、できるだけ近づいておきたいわね。

 じゃあ、おやすみ。〗

≪待って! さっき私をバグさんに付け替えるようなことを言ってた“おばさん”がいたけど、どういうつもり。≫

 シャルルンが最大の威圧を掛けながら、マギーに迫った。

〖おおこわ(笑い)。セイ様をおばさん呼ばわりとはすごい子がいたものね。

 あの意味はね。涼がコピーした『あなたの鑑定』をバグに張り付けろということよ。〗

≪エッ、どういうこと?≫

〖これ渡すから、あなたから説明して頂戴。ああ、ホントに限界!〗

 マギーはシャルルンの肩に手をかけると、そのまま消えてしまった。


 シャルルンは茫然と立っている。身動き一つしない。

 シャルが手を握って、『シャルルン、大丈夫?』と声をかけると、

≪ダメ!知識の奔流が止まらない。シャルの知識を吸収した時の涼はこんなんだったんだ。九九を・・・できない。≫

 と、呻くようにつぶやく。

〔処理能力を超えた知識を渡されたようですね。一旦休みなさい。整理出来たら声をかけて。〕

 リサたんが落ち着いた調子で声をかける。

≪わかった。あとはお願い。≫

 そう言うと、シャルルンが消えてしまった。シャルも一緒だ。

〔私たちも戻るわよ。〕

 リサたんの声で、僕は自分の精神空間から抜け出した。


 戻ってみると、ベネさんやバグ、ヨナにカーラまで集まっていた。

 ベネさんはリサさんの、バグはシャルちゃんの手を握り締めている。ヨナさんは泣きそうになっているカーラを抱きしめ、落ち着くように諭している。


 リサさんは瞬時に身を起こすが、シャルちゃんの方はだるそうにゆっくりと起き上がる。

「何があった!」

 ベネさんの問いかけに、にたりと笑うリサさん。なにかとても楽しそうだ。

 ベネさんが不審そうに眉をひそめ、リサさんの顔を覗き込む。

「こんなに興奮したことは無いぞ。

 まさか、しずか様にお会いできるとはな。

 しかも始祖と聖女の息子とは!

 魔力塊の正体に、異世界からの侵略者!

 おい、ヨナ。天空往来ほどではないが、先の見えない本当の冒険ってやつに出会ったぞ。」


 そういって、豪快に笑うリサさん。

 それ、なんの説明にもなってないんですけど。


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